カネミ油症(環境社会学Tでの映像使用例)

2008年4月22日 2008年5月7日改訂

●文章作成中●

『カネミ油症 遅すぎた認定基準見直し』NHK、2005年4月8日、九州沖縄金曜リポート、25分 4月21日(月曜クラス)/22日(火曜クラス)

キーワード:ダイオキシン、PCDFを認定基準に追加、37年経って血中濃度は下がっている、九大医学部皮膚科古江教授、川名英之

福岡県中間市の重本加名代さん(48歳)は未認定患者。症状が続いているが、2004年新基準による診定ではPCDFが10ピコだったため、認定されなかった。北九州の広本政美さん(54歳男性)は19ピコ、その前年が25ピコで、前々年は30ピコを超えたとも予想されるが、未認定だった。広本さんは27歳のときにもNHKテレビの取材を受け、認定してほしいと訴えている。長崎県五島奈留島の古木夫妻(74歳)は未認定患者。2人あわせて1000万円の治療費を自己負担してきた。隣の福江島の総合病院に通う。新基準による診定では、夫の武次さんは85ピコで認定された。妻のハルエさんは30ピコを超える33ピコだったにもかかわらず症状(皮膚症状が弱く、消化器や心臓の症状が中心)により「油症と言い切れない」として認定されなかった。同じ食生活をしてきた夫婦が認定と未認定に分かれる異常事態は水俣病でもしばしばみられる。全国油症研究班の九大医学部皮膚科・古江増隆教授(東大医学部卒)は「いまの診定ですから[過去を推測するわけにいかない]」「私には及ばないこと」「申し訳ございません」と弁解している。熊本学園大学の原田正純教授(胎児性水俣病の発見者)は「患者の症状にみあった基準でないといけない」「血中濃度が低くなったからと否定の材料にするのはおかしい」と皮膚症状偏重を批判する。川名英之(元毎日新聞記者)は「カネミ倉庫の支払う23万円は他の公害病と比べてあまりに少ない」と指摘する[水俣病は400万円とか1500万円など]。被害者との交渉で、カネミ倉庫は謝罪しなかった。被害届14000人のうち認定は1900人。新基準でも申請117人に対して認定18人。(年齢はNHK放映の2005年当時。なお今年2008年はカネミ油症発生1968年から40周年にあたる。水俣病公式発見1956年の50周年にあたる2006年には『朝日新聞』などで特集が組まれたが、今年はどうだろうか。地元紙の『西日本新聞』や『長崎新聞』などはどうだろうか。油症患者が多いのは、県単位でいうと福岡県、市町村単位で言うと長崎県五島市である。他に九州、中国、四国、近畿の各県に被害者。補償金の低さもそうだが、認定患者原告に対する仮払金返還請求[2007年救済法でほぼ救済]は「国による公害病被害者いじめ」[自殺者も出たという]であり、他に例を見ない。未認定患者への冷酷さは水俣病などと同様。)

ミリグラム=1000分の1グラム、マイクログラム=100万分の1グラム、ナノグラム=10億分の1グラム、ピコグラム=1兆分の1グラム。多くの有害物質はマイクログラムやナノグラムで測るが、ダイオキシンは毒性が強いのでピコグラムで測る。PCDFがカネミ油症の主因とわかったのは1983年であるが、微量測定技術の実用化は2000年であった。

 ●他に映像資料として下記がある。

『カネミ油症は終わっていない(九州沖縄スペシャル)』NHK20061027日放映、45分、長崎放送局制作

キーワード:カネミ油症、仮払金の返還問題、カネミ油症被害者救済立法の停滞、認定基準の問題点(水俣病と比較)、食品衛生法、食中毒に認定基準?、五島列島、福岡、長崎

●参考文献

『ダイオキシン』宮田秀明(岩波新書1999年)

『黒い赤ちゃん:カネミ油症34年の空白』明石昇二郎(講談社2002年)

『検証・カネミ油症事件』川名英之(緑風出版2005年)★

『カネミ油症 過去・現在・未来』カネミ油症被害者支援センター編(緑風出版2006年)津田敏秀(公衆衛生学)、原田正純(神経内科)、保田行雄(弁護士)ほか★

『ダイオキシンは怖くないという嘘』長山淳哉(緑風出版2007年)

『実は危険なダイオキシン『神話の終焉』の構を衝く』川名英之(緑風出版2008年)

「焦点08知りたい 深刻な健康被害発生から40年 カネミ油症 救済に壁 認定、被害の1割強 家族間でも分かれる判断 4月にも新たな提訴」貞松慎二郎『朝日新聞』2008年3月23日第37

このウェブサイトの「最近の原稿」の「図表」にある「カネミ油症年表」も参照

 

●高校数学を思い出そう。

高校で理系コースだった人の全員、文系コースだった人の多くは「論理」を学んだ。「ある命題が真であれば、その対偶も真であるが、逆と裏は必ずしも真であるとは言えない」という公理がある。カネミ油症で2004年にPCDFの数値基準(30ピコグラム/グラム以上)をもうけた趣旨は、「PCDF濃度が高ければ油症である」ということである。

1.「PCDF濃度が高ければ油症である」(命題)真である。1968年の油症発生から36年もたつが、まだ血中PCDFが高い人がおり、その人は油症である。

2.「油症でない人はPCDF濃度が低い」(命題の待遇)真である。これも当たり前である。ただし例外もないとはいえない。たとえば、油症でなくても、「ダイオキシン基準違反の老朽化したゴミ焼却炉の解体作業を防護服なしでやらされた労働者」はPSDFが高いかもしれない。

3.「PCDF濃度が低ければ油症でない」(命題の裏)偽である。なぜなら、排泄能力には個人差があるので、36年たてば相当排泄した人もいると予想されるからである。男女共通の排泄経路は糞、尿、汗、毛髪であるが、女性にはさらに胎盤という排泄経路がある。だから、出産や流産をした女性はより下がっているだろう。古木ハツエさんが同じ食生活をしてきた夫より低かった。流産を繰り返した重本さんは相当低かった。

4.「油症の人はPCDFが高い」(命題の逆)偽である。もちろんまだ高い人はいるが、36年もたったのだから、低くなった人もいる。広本さんが言うように、認定患者でも30より低くなった人がいる。

 

●食品衛生法の異常事態

重本さんの「食中毒になぜ認定基準がいるのでしょうか」という「素朴な疑問」は間違っていない。岡山大学医学部の津田敏秀教授がいつも言うように、「未認定食中毒患者が1万人もいる」という異常事態が2つもあるが(水俣病の2万人とカネミ油症の1万人)、これは食品衛生法の運用を破壊するものであり、あってはならないことである。なぜ日本人は怒らないのか? 食中毒患者とは、「暴露有症」の人を言う。つまり、原因食品ないし病因物質を食べ、症状のある人である。症状の組み合わせや種類(皮膚症状、消化器症状など)によって選別してはならない。ブドウ球菌食中毒の人を「下痢と嘔吐があるので認定」「下痢だけ、嘔吐だけは未認定」などと選別するであろうか? 特殊な食中毒なので基準は必要と思うが、いまの両基準はあまりに異常である。水俣病では、1971年のまともな基準を破壊して、1977年(昭和52年)に「異常な基準」をつくってしまい、現在に至っている。昭和52年判断条件を満たす人はもちろん水俣病だが、9分の2しか認定されず、9分の6は保留である。満たさない人にも水俣病の人は多い(そのほぼ全員は1971年基準を満たす)。カネミ油症の診定基準は皮膚症状偏重である。「ダイオキシン被害」という共通点を考慮して、台湾油症やベトナム枯葉剤被害(ベトナム、韓国、米国)の認定基準に学ぶべきである。

 

●早とちりの間違いと見逃しの間違い

片平洌彦教授(保健社会学)は、統計学でいう第1種のエラーを「早とちり」、第2種のエラーを「見逃し」と呼んだ。「神」は「全知・全能・無謬」であるが、人間は「部分知(知らないことが多い)」「能力に限界」「可謬(間違えることがある)」である。

 

公害被害者救済

有害物質規制

刑事裁判

早とちり(第1種エラー)

他の原因で病気になった人を公害病とみなす(補償金の支払いが「過剰」になる)

害の低い物質を早まって規制する(企業の損失が「過剰」になる)

無実の人を早まって犯人として扱う(冤罪)★

見逃し(第2種エラー)

公害病患者を見逃して救済しない(未認定患者などの苦しみが増大する)★

有害物質を見逃して放置する★

真犯人を見逃す

コメント

異常に厳しい認定基準で未認定患者が多発するのは早とちりの防止に力点があるためだろう

見逃し防止に力点をおくことを予防原則という。アスベスト問題などの教訓

欧州諸国の死刑廃止や国連の死刑廃止条約(1989年)も冤罪刑死の防止が主眼

このウェブサイトの「最近の原稿」の「水俣病事件における食品衛生法と憲法」の表3も参照。未認定患者が多発し、公害規制が後手に回り、冤罪が多発するのは、人権と民主主義の観点からみると本末転倒である。

 

●受講生の感想抜粋

「私はカネミ油症という病気があることしか知らなくて、今日の授業で学んだことはとても衝撃的でした。私の出身である北九州でも患者に症状が出ていたことも知りませんでした。ビデオで患者さんがなんで認定基準があるか分からないと言っていましたが、私もわかりません。ダイオキシン濃度の数値が基準値を超えていても認定されないのなら、何のための基準なのかと思いました。もっと患者の症状で判断すべきだと思います。原因不明の腹痛や下痢など苦しんでいる人たちを救済できる方法を国が早く対応してほしいです」(女子)

 

「水俣病もそうですが、認定基準がただ患者をふるいにかけるためにあるように思え、そもそも行政は何がしたいのかわかりません。さらに突っ込んで言うと、民主主義の原則から外れてしまっているように思います」(男子)

 

「申請している人の1割程度しか救えない認定基準というのは意味がないと思いました。新しい認定基準でも、濃度は超えていても症状によっては認めないなんて、何とか認定患者を最小限にとどめたいみたいだと思いました。そして、そのとても厳しい認定基準に達して認められた人でさえ、ごくわずかな補償しか得られないなんて、ひどすぎると思います。国にしろ、企業にしろ、もっと自分たちの非をかみしめるべきではないでしょうか。」(女子)

 

「カネミ油症問題が37年たっても[40年たっても]解決していないなんて知らなかった。さらにカネミ油症と認定されたのが全体の1割しかいないというのも驚いた。PCDFの含有量が減ったとしても、症状が出ているのなら認定基準なんて関係なしに認めるべきだと思う。水俣病に対しても言えるが、被害者の状況を最優先に考えて判断を下すべきである。」(女子)

 

「今回の講義で最も印象に残ったのは、長年同じ食生活をしているのにもかかわらず、だんなさんはカネミ油症に認定され、奥さんは認定されなかったことでした。カネミ油症と判断できる症状が出ているのにもかかわらず[PCDFも30を越える]認定しないのはおかしいことではないだろうかと思った。もっと患者の気持ちを考えてあげるべきではないだろうか」(女子)

 

「水俣病やイタイイタイ病などの症状は聞いたことがありますが、カネミ油症という病名は初めて聞きました。内臓や足に痛みを感じる人はみな平等にすべきなのに、なぜ医者は認定基準をやたらに高くしているのでしょうか」(女子)

 

「カネミ油症という言葉はまったく聞いたことがなかった。しかし映像を見ていて、水俣病などと同じく、長期的な症状であるうえに、被害者の救済がなかなか進まないというやりきれないパターンであることに腹が立った。食中毒に認定基準が必要なのか。苦しんでいるのに国はなぜ助けようとしないのか。この国には多くの疑問が残る。40年もたつのだから、ダイオキシン濃度だけでなく、もっと患者の声を聞いて、患者にあった医療対策をすべきである。患者の高齢化がすすむといって、この問題をうやむやにしてはならない」(女子)

 

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