水俣病特措法を弾劾する

2009年3月29日掲載 1112日改訂

 

チッソ救済・国の責任逃避・被害者切り捨ての水俣病特措法案に反対する。憲法13条・25条(健康権・環境権)に反するだけでなく、32条(裁判を受ける権利)にも反する違憲立法ではないだろうか? 政治家(与党と民主党)、官僚(環境省)、御用学者たちはいつまで被害者・国民を騙し続けるのか? 公害の原点・環境問題の原点と言われる水俣病への歴史認識・現状認識をおろそかにすることは許されない。環境学の専門家(長崎大学環境科学部の教員を含む)においてすら、昭和52年判断条件の容認(「専門外なのでわからない」などと答える消極的容認を含む)が多数である。昭和52年判断条件の学問的破綻を日本精神神経学会の委員会が1998年に指摘した意味は大きい。昭和52年判断条件を学問的に擁護した学術団体はもちろん存在しない。水俣病特措法の全文は

http://www.soshisha.org/kanja/2009kyuusai_houan.html

 

 

目次

1.朝日新聞2009年2月14日西部本社版一面記事

2.朝日新聞2009年2月17日社会面記事

3.山陽新聞2009年3月11日社説

   3月13日与党法案提出

4.西日本新聞2009年3月14日社説

5.日本共産党国会議員団2009年3月23日提言

6.全日本民医連2009年3月25日声明

7.しんぶん赤旗2009年3月27日主張

8.朝日新聞2009年4月14日社説

9.朝日新聞2009年4月17日記事

10.毎日新聞2009年5月8日社説

11.日本共産党の法案大綱 2009年6月29

12.朝日新聞2009年7月1日社説

13.西日本新聞2009年7月3日社説

14.朝日新聞2009年7月7日一面記事

   7月8日与党と民主党により強行採決で成立

15.「水俣病幕引き・チッソ免責」立法に対する研究者・表現者の緊急抗議声明 7月8日

16.朝日新聞2009年7月9日社説

17.毎日新聞2009年7月9日社説

18.しんぶん赤旗2009年7月9日記事

19.朝日新聞2009年9月28社説

20.しんぶん赤旗200911月3日主張

21参考文献紹介

 

●朝日新聞2009年2月14日西部本社版1面記事

水俣病審査、終了の方向 救済策は3年限り 与党チーム明示へ、幕引き狙いか【西部】

 

水俣病未認定患者の救済問題で、与党プロジェクトチーム(PT)は13日、被害者救済と原因企業チッソの分社化のための特別措置法案を3月上旬に国会に提出する方針を決めた。厳格な認定基準で水俣病と認められない被害者救済の最終決着にとどまらず、水俣病問題全体を終わらせるため、認定制度を終了させるまでの道筋を明文化する方針を示した。だが、民主党や被害者からは「強引な幕引きを図るものだ」と批判も強く、救済策が実現するかはなお不透明だ。

 (中島健)=35面に関係記事

 PTによると、救済対象は公的診断で 四肢末梢(まっしょう)優位の感覚障害と判定された人で、水俣病被害者との位置づけを検討。一時金150万円などは基金を通じて給付。救済は「遅くとも3年以内に完了」と期限を設ける。一時金などの原資と想定されるチッソ分社化後の株式売却は、経済情勢の悪化を受け、救済が終了し市況が好転するまで、3年をめどに凍結するとしている。

 未認定患者の救済を巡っては、「最終的・全面的解決」として95年に政治決着が図られ、いったんは混迷がおさまった。だが、04年に最高裁が行政とは別の基準で幅広い救済を命じた後、認定申請が急増、熊本、鹿児島両県で6千人を超える。訴訟も起こされ、「解決」にはほど遠い状態だ。今回、PTは救済策の実施にあたって、認定審査終了までの手順を明記するとの方針に初めて踏み込み、「水俣病問題を終わらせる」という強い意思を示した。認定申請者について審査が進めば認定申請の受け付けを終える方向。損害賠償を求めて国などと争っている被害者団体との訴訟の解決にめどをつけ、「最終解決」を打ち出す意向だ。

 ただ、法案成立のカギは民主党が握っており、PTは法案審議前に協議したいとの意向だ。民主党水俣病対策作業チーム座長の松野信夫参院議員は「認定申請の窓口を閉ざす幕引きの意図を感じる。補償の窓口は開けておくべきで、慎重に対応を検討したい」と話した。

チッソ生き残り優先

 《解説》与党プロジェクトチーム(PT)が掲げる「真の最終解決」は、救済策の検討を始めた当初からの方針だった。ただ、水俣病の症状を極めて限定的にとらえた現行認定基準の見直しなど、被害者側の要求は無視。加害企業チッソの生き残りを優先させた内容だと受け止めざるを得ない。強引な「最終解決」は95年の政治決着と同様、火種を残すだろう。

 なかでも重大な点が、「認定審査の結了」を盛り込んだこと。それは、認定制度という水俣病被害者救済システムの廃止を意味するが、チッソの分社化にも絡んでくる。

 分社化するには、チッソが抱える債務を確定させる必要がある。後年、新たな被害者が増えると債務が膨らむため、認定制度をなくして被害者救済の門戸を閉じる。なかなか名乗り出られない被害者側の事情より、チッソの債務確定を優先させるわけだ。
 さらに、認定基準の妥当性を考えるのに必要な「水俣病とはどういう病気なのか」という検討が、PTの議論から一切抜けていた。

 救済対象を手足の先の感覚が鈍くなる四肢末梢優位の感覚障害がある人に限ったが、地元で診療を続ける医師らは、全身の感覚障害や感覚障害がみられないケースなど多様な病像を指摘する。だが、こうした見解を持つ専門医らも交えて基準の再検討を求めた声は、黙殺された。

 公式確認から半世紀以上。今なお、6千人を超す認定申請者のいる「闇」を抱えた公害事件を、チッソの分社化=チッソの生き残りを優先させて幕引きしていいのか。人命より経済成長を重んじたかつての日本の誤りを、忘れ去ることにつながりはしないだろうか。 (編集委員・野上隆生)

 与党PTの水俣病問題解決の方向性骨子

 (1)対象者は、公的診断で四肢末梢(まっしょう)優位の感覚障害を有すると判定された者。基金を設けて、一時金150万円、医療費、医療手当を給付する。速やかに実施し、遅くとも3年以内に完了する。

 (2)救済策の終了、認定審査の結了、訴訟の解決など救済が終了する手順を示し、最終解決だと明らかにする。

 (3)チッソの支援と分社化を実施する。分社化後の株式売却は、救済の終了及び市況の好転まで3年をめどに凍結する。

出典

http://database.asahi.com/library2/main/start.php?loginSID=292fb145c42b3b75eba779f241b5fdd6

この記事の存在は同紙を購読しているので知った。

 

●朝日新聞2009年2月17日西部本社版社会面記事

水俣病認定審査「3年で終える」 西尾・環境省次官

 

水俣病の未認定患者の救済問題で、環境省の西尾哲茂事務次官は16日の記者会見で、「3年の間に、いま救済を求めている方々に対応し、認定の申請や救済を終了したい」と述べ、与党が法案化を進めている救済策が実施された後、水俣病の認定審査を終える考えを示した。

 審査の継続を求める声もあるが、西尾次官は「ある程度の期間をもって、救済を求める人を確定する。それでも残る方は、どういう方々か」「今の方々に解決がついたら、終了するのがあるべき姿だ」と述べた。

 

http://database.asahi.com/library2/main/start.php?loginSID=292fb145c42b3b75eba779f241b5fdd6

 

●山陽新聞2009年3月11日社説

水俣病特措法案 被害者救済 幕引きするな

 水俣病問題に関する与党プロジェクトチームが、未認定患者の救済と原因企業チッソの分社化プランなどを盛り込んだ特別措置法案の今国会提出を決めた。「最終解決」を目指す与党だが、これで真の救済につながるかどうか、問題点が多いと言わざるを得ない。

 与党案によると、救済対象は「過去に通常以上のメチル水銀の影響を受けた可能性があり、手足の先ほど感覚障害が強い人」とする。行政への認定申請や訴訟は取り下げることが条件だ。三年以内をめどに救済対象者を確定し、その後は公害健康被害補償法の水俣病指定地域を解除、新たな患者認定は終えるとしている。

 また、救済内容は一人当たり一時金百五十万円、療養手当月額一万円などとなる見通し。長年借金しながら患者への補償金を支払ってきたチッソは、患者補償会社の親会社と事業部門の子会社に分社化し、子会社の株式配当金を補償に充て、将来は事業会社を売却して別会社にする。その際の株式売却益も補償に回すことにしている。

 これに対して、民主党は被害者救済とチッソ分社化を抱き合わせにする法律の制定には反対しており、独自の法案提出を予定している。複数ある被害者団体も賛否が分かれている。

 水俣病が公式確認されてから今年で五十三年になる。これまで熊本、鹿児島、新潟三県の約三千人が認定患者とされたが、国の認定基準は複数の症状が条件で、ハードルが高かった。自社さきがけ連立の村山政権は一九九五年、一時金などの政治解決策を打ち出し、未認定患者約一万二千人が応じたが、二〇〇四年の関西訴訟最高裁判決が、国の認定基準より幅広い救済を命じたことから、再び提訴や認定申請が相次いだ。

国と司法の「二重基準」が問題を複雑化させて今日に至っている。今回の与党案は現行基準の見直しはせず、新たな基準を加えることになり、一層の混乱を招きかねない。被害の全容がいまだに明確でないのに、認定を三年で区切るのも疑問だ。チッソの分社化後の株式売却益が想定通り得られるのかも不透明で、加害者としての責任があいまいになるのではという懸念がぬぐい切れない。

 被害者の高齢化を考えると、決着を急がなければならないが、水俣病問題の最終的な幕引きをするには課題は残されたままだ。与野党は徹底した議論を進め、被害者の幅広い救済の道を探ることが必要だ。

出典 http://www.sanyo.oni.co.jp/sanyonews/2009/03/11/2009031108540775002.html

この山陽新聞社説の存在は、「水俣病 特措法」でグーグル検索することにより知った。

●西日本新聞2009年3月14日社説

水俣病法案 これで最終解決? 無理だ

 水俣病の未認定患者救済問題の「最終解決」を目指す特別措置法案を、与党が国会に提出した。

 「救済を受けるべき人を一刻も早く救済する」という立法趣旨に異を唱えるつもりはない。被害の救済に政治が動きだしたことにも異論はない。

 被害者の高齢化などを考えれば、早期救済に向けた政治の役割と決断がいま強く求められている。

 しかし、提出された与党法案からは、早期救済以上に水俣病問題の解決に欠かせない「被害者をもれなく救済する」という政治の決意は伝わってこない。

 水俣病問題をここまでこじれさせた「水俣病とは何か」という本質論議を踏まえた視点が欠落しているからだ。

 これでは認定申請者の大量滞留という眼前の懸案をとりあえず処理する、その場しのぎの措置にしかなり得ない。

 政治に求められているのは「すべての被害者をもれなく適切に救済・補償する恒久的な枠組み」づくりだ。

 民主党も近く独自の救済法案を提出するという。国会の場で与野党が議論して「真の恒久救済策」となるよう、法案の抜本的なつくり直しを求めたい。それができないなら廃案にすべきだ。

 与党法案の救済策は「過去に通常以上のメチル水銀の影響を受けた可能性」があり「手足の先ほど感覚障害が強い症状がある人」を救済対象とし、一時金150万円と療養手当などを支給するというものだ。認定申請や訴訟の取り下げが条件で、3年をめどに対象者を確定し、救済を完了するとしている。

 救済策実施に必要な補償費用確保のため、原因企業チッソが求めていた分社化を認めることも法案に盛り込んだ。

 救済完了後は、公害健康被害補償法に基づく水俣病発生の地域指定を解除し、認定審査も打ち切るという。

 この法案には、私たちが繰り返し指摘してきた水俣病の病像のとらえ方=認定基準の問題点だけでなく、見過ごせば禍根を残す重大な問題が含まれている。

 ひとつは、公健法に基づく地域指定解除である。地域指定が解除されれば患者認定も当然なくなる。それは行政上の水俣病問題の「終結」を意味する。

 もうひとつは、チッソの分社化容認である。これにより水俣病を引き起こし、拡大させた加害企業は近い将来、事実上「消滅」することになる。

 水俣病被害の全容は、いまだつかめていない。地元が求めている不知火海全域の健康調査も棚上げされたままだ。

 にもかかわらず救済期限を区切り、その後は認定などの行政救済を終結し、補償責任を負う加害企業を消滅させるというのだ。現地から「被害者切り捨て」の批判が出るのも当然だろう。

 水俣病問題の早期終息を前提にしたような救済策が最終解決案とは、どう考えてもおかしい。与党に再考を求める。

2009/03/14付 西日本新聞朝刊=

出典 http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/83143

この西日本新聞社説の存在は、『しんぶん赤旗』の記事で言及されていたので知った。

●日本共産党国会議員団2009年3月23日提言(しんぶん赤旗2009年3月24日掲載)

 

被害者切り捨て、加害企業免罪の与党「特別措置法案」は撤回し、すべての水俣病被害者の救済を

日本共産党国会議員団の提言(全文)


 日本共産党の市田忠義書記局長が二十三日、熊本県庁で発表した、すべての水俣病被害者の救済を求める党国会議員団の提言の全文は次の通りです。


 与党は議員立法で水俣病「特別措置法」を3月13日に衆議院に提出しました。日本共産党は、その重大な問題点を指摘するとともに、真の解決策を提言するものです。

(1)水俣病は終わっていない―最高裁判決と被害者救済の到達点

(1)被害の全貌をつかむことなしに真の解決の道はない

 「公害の原点」水俣病が公式確認されて、53年を迎えます。

 2004年10月、最高裁判決は、水俣病の発生と拡大の責任が、チッソはもとより、国・県にもあると断罪し、感覚障害だけで水俣病と認めました。

 公害健康被害補償法認定申請者、訴訟原告、新保健手帳交付者、医療費受給者と、1995年の政治解決時の救済者だけで4万数千人にのぼり、これは水俣市、出水市などの公健法指定地域の人口約13万人の3割になります。いまなお、不知火海沿岸でも新潟水俣病の阿賀野川流域でも声を上げられないでいる被害者が多数おり、水俣病被害の甚大さ、深刻さを示しています。胎児性や、小児性の世代へも広がっています。水俣病は有機水銀による人類史上類例のない未曽有の公害であり、被害の全貌(ぜんぼう)をつかむことなくして真の解決の道はありません。

(2)政府が最高裁判決で断罪されたにもかかわらず、「解決」のためにまともな方策をとっていない

 だからこそ、熊本県は最高裁判決直後、不知火海沿岸に居住歴のある47万人すべての健康調査を提案しました。しかし国・環境省はこれを拒否し続け、最高裁判決で断罪された認定基準(昭和52年判断基準)に固執し、被害者を放置してきました。

(2)被害者切り捨て、チッソ免罪―与党「特別措置法案」の重大な問題点

(1)水俣病被害者を分断し、大量に切り捨てる与党案

 与党の「特措法案」は、最高裁判決で国と県の責任が断罪されたにもかかわらず、加害企業チッソとともに国・県、とりわけ国の加害責任とそれにもとづく補償という根本問題を不問に付しています。

 「特措法案」は、政府が最高裁判決で否定された認定基準に固執しているため別の枠組みをつくりましたが、調査対象を約1万人に絞り込んだ政府の調査ですら、認定申請者や保健手帳保持者の三分の二が救済の対象外となり切り捨てられます。さらに救済措置を受けるには、主治医ではなく政府が指定の「公的診断」が必要であり、ここでも切り捨ての懸念があります。しかも認定申請者、訴訟原告は救済措置の対象から除外され、公健法にもとづき認定申請をすることも憲法で保障される裁判をする権利も認めないなど二重、三重の被害者切り捨てになっています。

(2)水俣病問題の幕引きを図る「地域指定解除」は許されない

 「特措法案」は、3年以内を目途に被害対象者を確定し、その後公健法にもとづく地域指定を解除するとしています。しかし、これは、水俣病問題を強引に幕引きしようとするもので到底許されるものではありません。

(3)チッソの「分社化」は加害企業を免罪するもの

 「特措法案」は、チッソから事業収益をあげる新会社を「分社化」し、チッソ本体はその支払い能力(保有する新会社の株式売却)の範囲でしか責任を負わないとするものです。今後の補償やこれまでの加害責任を果たすためにチッソが国から支援をうけてきた債務返済ができなくなれば、国が税金で肩代わりすることになります。いずれチッソ本体は消滅することになります。これは加害企業としての社会的・地域的な責任の免罪そのものです。

 公害患者をはじめとした人々の命がけのたたかいによって築かれてきた「汚染者負担の原則」を事実上骨抜きにし、企業の利益最優先、公害と環境・健康破壊の加害者責任を後退させるスキームを、我が国の被害者救済制度に持ち込むことは、水俣病問題にとどまらず将来に禍根を残す重大問題です。

 与党の「特措法案」は撤回すべきです。

(3)最高裁判決にもとづき、加害企業、国・県の責任で、水俣病被害者の救済、水俣病問題の真の解決を

 日本共産党は、すべての水俣病患者・被害者の救済、水俣病問題の真の解決のために以下の点が大事だと考えます。

(1)健康調査、環境調査の実施ですべての被害者の救済を

 すべての被害者を救済するために不知火海沿岸、阿賀野川流域の住民の健康調査、環境調査を実施し、水俣病被害の実相を明らかにするべきです。

(2)被害者切り捨ての国の認定基準の見直し

 被害者を切り捨ててきた国の認定基準(52年判断条件)を最高裁判決基準に見直すべきです。

(3)最高裁判決をふまえ、司法救済システムを確立する

 最高裁判決をふまえ、裁判所の判断による司法救済システムを確立することです。

(4)国の責任で恒久的な被害者救済策を策定する

 (1)国は、確定した司法が示した基準にもとづき、主治医の診断で水俣病と認めること。チッソ、昭和電工、国、県の法的責任にたって、司法基準に沿った、被害にみあった一時金、療養手当、医療費を支給すること。(2)期限を設けず、水俣病被害者を最後の一人まで救済する恒久的な救済策を策定すること、などの抜本的な対策を求めます。

出典 http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2009-03-24/2009032404_03_0.html

 

●全日本民医連2009年3月25日声明

【声明】与党の水俣病問題に関する「特別措置法案」に断固反対する

2009年3月25日

全日本民主医療機関連合会

会長 鈴木 篤

 自民・公明両党は3月13日、水俣病の「最終解決」をはかるとして「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の最終解決に関する特別措置関連法案」を衆議院に提出した。しかし、同法案の言う「最終解決」は、(1)被害者を大量に切り捨てる、(2)きわめて低い水準の保障である、(3)加害企業チッソを「免罪」するものに他ならず断じて容認できない。

 第一に法案には「救済を受けるべき人々があたう限りすべて救済され」とあるが法案の言う「救済を受けるべき人々」は「通常起こりえる程度を越えるメチル水銀のばく露を受け」「かつ四肢末梢優位の感覚障害を有する者」としている。この内容では声を上げている人の「およそ3分の2」が切り捨てられてしまう。さらに3年の期限を区切ってその後にあらあわれた水俣病患者を一切救済しない本法案は未だに声を上げられないでいる潜在患者を切り捨てるものである。

 そもそも国はいまだに、地域住民の健康調査に基づく被害実態の把握をしていない。言うなれば水俣病がいかなる疾病かということを何も分かっていないのである。そのなかで、全日本民医連は長年にわたり水俣病患者の診療・研究を重ね、水俣病患者に寄り添い、被害者の治療・援護にあたってきた。水俣病患者の苦しみは法案が示すような「救済策」では決して救われないことは臨床の現場からみればあきらかである。

 第二に、本法案が示す救済措置は、最高裁判決の賠償水準はもとより1995年の「政治決着」をも下回るきわめて低い水準であるなど、多くの問題を含んでいる。

 第三に、本法案はチッソをいずれ清算に向かう補償のための親会社と収益を上げる子会社に分社化することとしている。加害原因企業と企業責任の免罪は、被害者が加害者チッソに対する損害賠償請求裁判などを不可能とさせるものであり断じて容認できない。

 以上の点から、本法案はまさに保障を低い水準に押さえ込みかつ水俣病患者の切り捨てのための法案であることは明白であり決して認めることはできない。

 全日本民医連は本年9月に熊本県などで水俣病の大規模な健診活動を通じ、水俣病の実相を明らかにするとりくみを計画している。与党PTが出した法案がいかにでたらめなものであるかが白日の下にさらされるであろう。また、問題の根本解決には患者会の願いである「司法救済制度」の確立など、被害者の声を生かした制度が欠かせない。

 全日本民医連は水俣病患者の全員救済が実現されるまで、断固としてたたかうことをあわせて付け加える。

出典 http://www.min-iren.gr.jp/seimei-kenkai/2009/090326-01.html

 

●しんぶん赤旗2009年3月27主張(商業紙の社説に相当する)

水俣病特措法案 被害者の切り捨てを許さない


 自民・公明の与党が国会に提出した水俣病問題に関する「特別措置法案」に患者諸団体が猛反発し、撤回を強く要求しています。

 水俣病が公式に確認されてから五十三年もたつというのに、いまだに多くの被害者が救済されないままです。政府が厳しすぎる認定基準に固執し、被害者救済を怠ってきたからです。与党は政府の対策から取り残された被害者の救済のためといいますが、法案の中身は多くの被害者を切り捨て、加害企業を免罪するのが主眼の悪法であることは明白です。

チッソの免罪がねらい

 公害健康被害補償法にもとづいて水俣病の認定を申請している被害者だけでも二月現在六千三百十六人です。水俣病関西訴訟で水俣病の発生と拡大の責任がチッソだけでなく国と熊本県にもあると断罪した二〇〇四年十月の最高裁判決をうけて、認定申請する被害者が増えた結果です。しかし今でも声をあげられない被害者もいます。そうした人々を含めてすべての被害者を救済することが政治の役割です。与党案は「あたう限り」というだけで最後の一人まで救済することを目標にしていません。被害者救済の名に値するものでないことは明らかです。

 重大なのは与党案が、加害企業チッソと国、県、とりわけ国の加害責任とそれにもとづく補償という根本問題を不問にしていることです。この根本が抜け落ちているために、チッソから事業収益をあげる新会社を「分社化」し、チッソ本体は支払い能力の範囲でしか責任を負わない内容になっています。これはチッソの社会的・地域的な責任を免罪するものであり、患者諸団体が怒るのは当然です。

 被害者救済の道をとざすやり口は露骨です。認定対象を「四肢末梢(まっしょう)優位の感覚障害」(手足の感覚障害)者にしぼったうえ、裁判に訴える者を「救済措置の対象にしない」と明記しています。憲法が保障する権利さえ認めないのです。許されるはずはありません。

 しかも法案は、「三年以内を目途に救済措置の対象者を確定」し、公害健康被害補償法にもとづく地域指定も解除すると明記しています。水俣病問題の解決に不可欠な被害実態は政府が調査を拒絶しているため、いまだにわかっていません。日本共産党の市田忠義参議院議員が被害実態の調査を要求しても斉藤鉄夫環境相(公明党)は「困難」(十七日参院環境委員会)と拒否するばかりでした。被害実態もわからず、幕引きをはかるのは道理にもあいません。

 大量の被害者切り捨てを狙う与党の「特別措置法案」では水俣病被害者は救済できません。廃案に追い込むしかありません。

解決のための抜本対策

 最高裁判決にもとづき、加害企業、国、熊本県の責任で被害者救済にあたることこそ重要です。日本共産党国会議員団は水俣病問題の真の解決のため、四つの提案を発表しています。(1)地域住民の健康調査を行い被害の実相を明らかにする、(2)被害者切り捨ての国の認定基準を見直す、(3)最高裁判決をふまえて司法救済システムを確立する、(4)国の責任で、期限を設けず被害者をすべて救済する恒久的な救済策を策定する。

 こうした内容による解決をめざし、日本共産党は被害者とともに全力をあげます。

出典 http://www.jcp.or.jp/akahata/aik09/2009-03-27/2009032702_01_0.html

●朝日新聞2009年4月14日 社説

社説水俣病法案 与野党の本気度を問う

水俣病の未認定患者を救済する特別措置法案を与党が国会に提出し、民主党との協議が始まった。だが、まだこの与党案では決着とはなり得ない。

 与党案では、手足の先になるほど感覚が鈍る障害のある人を対象に、1人当たり150万円の一時金と月額1万円の療養手当などを支給する。

 同時に、分社化を条件に一時金の負担に応じる姿勢を見せる原因企業チッソに歩み寄り、分社化を認め税を減免することなども盛り込まれた。

 水俣病の患者であるかどうか、行政機関の結論を待つ人は6千人を超す。目前の懸案を収束させようとするあまり性急になっていないか。

 与党案は見過ごせない多くの問題点を抱えている。

とりわけ重大なのは、3年をめどに支給対象者を確定し、その後、公害健康被害補償法(公健法)に基づく地域指定を解除しようとする点だ。それは認定制度という水俣病被害者を救済する行政上の仕組みの廃止を意味する。

 チッソの分社化を認めることも見過ごせない。補償会社と事業会社に分け、事業会社の株を売って補償金に充てる算段だ。実質的には原因企業の消滅案といっても過言ではあるまい。

 なかなか名乗り出られない潜在患者がいる中で、期限を区切って被害者救済の門戸を閉じ、加害企業が消える道筋をつけるわけだ。現地では「被害者救済ではなく加害者救済だ」という批判が高まっている。当然のことだ。

地元と歩調を合わせて民主党も独自の救済法案をつくった。近く国会に提出する予定だ。

 与党案とは、とりわけ救済対象者について大きな差がある。「四肢末梢(まっしょう)優位の感覚障害」に限定している与党案に対し、民主案は全身性や舌の感覚障害などを含めて、より幅広い症状を対象とする。

 水俣病はまだ終わった問題ではない。そもそも、救済を受けるべき人々を定義するための「水俣病とはどんな病気なのか」という議論に決着がついていない。地元の医師らは、胎児性の場合は感覚障害がみられないことがあるなど多様な例を指摘している。

 民主案には地域指定解除も分社化も盛り込まれていない。一時金はまず国が全額を立て替えて支払い、後でチッソに請求する案だ。

 いまの基準で救済しきれない被害者を含めた恒久的救済のために必要なのは、与党案のように急いで足切りをすることではない。この際、国会の場で与野党がとことん議論してほしい。

 水俣病の被害が確認されてまもなく53年となる。被害者はどんどん高齢化している。解決は急がねばならない。真の被害者救済に政治がどこまで取り組む気があるのか、その本気度を問いたい。

   長崎大学HP→附属図書館→データベース→新聞→聞蔵U→「水俣&社説」で検索

●朝日新聞2009年4月17日記事(聞蔵U)

民主水俣対案提出へ

民主党は17日、水俣病被害者救済特措法案を参院に提出する。従来の国の基準より幅広い救済を認めた04年の最高裁判決を踏まえ、「全面解決の第一歩」としたい考えだ。一方、与党は水俣病認定審査の終了を念頭に「最終解決を図る」とした法案を3月に衆院に提出済み。週明けから修正協議に入る見通しだ。

 民主党案は、未認定患者に対する300万円の給付金支給が柱。四肢末梢(まっしょう)優位の感覚障害のほか、全身性や舌の感覚障害、求心性の視野狭窄、大脳の障害による精神障害などが救済対象で、5年以内の請求期限を設ける。

朝日新聞2009年4月18日西部本社版の該当記事には末尾に次の一文がある。

直嶋正行政調会長[民主党参議院議員]は記者会見で「結論が出せればと思うが、[与党案とは]だいぶ考えや基準が違う。一致点が見いだせるかは難しい」と述べた。

[  ]内は戸田の補足。

●毎日新聞2009年5月8日社説

社説:水俣病救済法案 全容解明せず幕引くな

 水俣病が公式に確認されてから53年が経過した。国会には自民・公明両党と民主党がそれぞれ被害者救済法案を提出している。与党は3年、民主党は5年をめどに救済申請を終了することとされている。

 早期に広く救済を進めることは当然だが、ともに水俣病問題に終止符を打つことが意図されているとみられてもやむを得ない内容だ。水俣病の全容はいまだに解明されていない。原因企業のチッソが責任を全うしたとも言えない。チッソの排水垂れ流しに適切な対策を取らなかった行政の責任の取り方も不十分なままだ。両救済法案は有機水銀中毒の症候がひとつでもあれば、一時金や医療費を支給の対象にするというものだ。しかし、新法以前に公害健康被害補償法がある。それに基づいた認定申請者は熊本、新潟合計で6000人以上いる。

 関西訴訟判決は二つ以上の症候でなければ認定しない認定基準の見直しそのものを求めていたはずだ。本当に被害者の救済を第一に考えるのであれば、認定基準の見直しを行うことだ。あるいは、環境省の水俣病問題懇談会が06年に提起したように、最高裁判決をもとにした包括的な救済が可能な新しい枠組み作りに取り組むことだ。

 民主党案は最終解決までの期間が自民・公明案より長い上、一時金額も高くなっている。被害調査の実施も盛り込まれている。与党案にあるチッソを救済のための会社と本業を行う会社に分ける案も民主党案には入っていない。

 このうち、被害調査は行政が最重要課題として早急に取り組まなければならない事項である。日本の高度成長の典型的公害と言いながらも、実態の全体把握がいまだにできていないことは、不作為と言わざるを得ない。こうした調査を実施するのであれば、救済の年限を5年に限ることはもともと困難なはずだ。

 与党の救済法案が提出された段階で、被害者団体の中に撤回を求める声が上がっているのも、認定基準問題や被害の全容解明に踏み込んでいないからだ。

 95年に政治解決が図られたものの、新たな認定申請や損害賠償請求を行う被害者が出ているところに、水俣病の難しさがある。現行の認定基準に手が付けられなければ、認定申請者の多くは棄却されてしまう。気の毒だから一時金を支払い、決着をはかろうというのでは、解決にならない。政治決着の限界である。

 自民・公明両党と民主党の間で法案の修正ができたとしても、裁判に訴えている被害者が納得できる状況は生まれにくい。公害問題の解決は被害の実態把握なしには不可能だ。

毎日新聞 200958日 東京朝刊

水俣病被害者救済に関する日本共産党の法案大綱(しんぶん赤旗2009年6月30日)

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik09/2009-06-30/2009063004_04_1.html

 日本共産党が[2009年6月]29日発表した「水俣病被害者救済に関する日本共産党の法案大綱」は次の通りです。

 すべての水俣病被害者を最高裁判決の水準で救済するため、公害健康被害の補償等に関する法律(公健法)を一部改正し、次の事項を盛り込むこととする。

I、最高裁判決に基づく認定基準及び認定資料を明文化する。

 国は、最高裁判決によって否定された国の認定基準(52年判断条件)に固執し、「二重の基準」の抜本的見直しを拒否している状況で、公害健康被害補償法を改正し、最高裁判決に基づく認定基準及び認定資料によって水俣病認定被害者を補償することにする。

 新たな認定基準は、下記のうち一つでも条件を満たす者であること。

(1)四肢末梢(まっしょう)優位の表在感覚障害を認める者

(2)全身性の表在感覚障害を認める者

(3)口の周囲の感覚障害を認める者

(4)舌の二点識別覚の障害を認める者

(5)求心性視野狭窄(きょうさく)を認める者

 とし、6カ月以内に施行するものとする。大脳皮質障害による知覚障害、精神障害又は運動障害、及び胎児性水俣病については医学的知見に基づいて早急に追加する。認定資料は、司法における共通診断書及び主治医の診断書等とする。

 国は、認定基準の見直しに基づいて最高裁判決水準の被害補償を完遂させるために、水俣病被害者と加害企業チッソおよび昭和電工との新たな補償協定を締結させる。

 最高裁判決で断罪された加害企業チッソ、国及び県の責任は補償協定に明記する。

II、被害地域の健康・環境調査及び健康影響等の調査研究の実施を明記する。

 これまでの公害健康被害補償法認定申請者、訴訟原告、新保健手帳交付者、医療費受給者と、95年の政治解決時の救済者だけで、4万数千人にのぼり、これは公健法指定地域の人口約13万人の3割になる。いまなお、不知火海沿岸でも新潟水俣病の阿賀野川流域でも声をあげられないでいる被害者が多数おり、胎児性や、小児性の世代へも広がっている。

 すべての被害者を救済するために不知火海沿岸、阿賀野川流域の住民の健康調査、環境調査を実施し、水俣病被害の実相を明らかにし、最高裁判決に基づいた認定基準で全面的に救済する。また、メチル水銀曝露(ばくろ)による健康影響及びこれによる症状治療等の調査研究を実施し、大脳皮質障害による知覚障害、精神障害又は運動障害や、胎児性水俣病などの被害者救済をすすめる。

III、公聴会等を開催して被害者、専門家の意見を聴取することを明記する。

 すべての水俣病被害者を救済するために、新たな認定基準や補償水準等の立法措置、被害地域の健康調査や健康影響の調査研究等の実施にあたっては、地元での公聴会や、長年研究、診察にあたってきた研究者、医学者の意見を聴取することとする。

●朝日新聞2009年7月1日社説「水俣病救済 見切り発車すべきでない」

新聞社説アーカイブ

http://blog.goo.ne.jp/freddie19/e/02501c798e59bf4f3976c8f3f52c1b78

 

 水俣病の未認定患者を救済する特別措置法案をめぐる与党と民主党との修正協議が最終局面を迎えている。しかし、このまま決着しても、真の恒久救済策には遠いと言わざるを得ない。

 水俣病の被害が確認されて53年になる。被害者の高齢化を考えると、早期救済に向けて決着を急がねばならないのは当然のことだ。

 これまでの協議で、与党も妥協の姿勢を見せている。救済対象については手足の先ほどしびれる感覚障害に限っていたが、より幅広い救済を求める民主党に歩み寄る構えを見せている。

 ところが、最大の争点である原因企業チッソの分社化については、「救済終了まで凍結する」と主張していた民主党が、「救済資金を確保するために分社化が絶対に必要」とする与党案を受け入れるようだ。

 分社化は補償会社と事業会社に分け、事業会社の株を売って補償金に充てる算段だ。将来的には補償会社を清算し、原因企業は実質的に消滅する。

 これでは、あとから症状の出てくる潜在患者らが、今後補償を求めようにも、その時には加害者が存在しないという事態になりかねない。

 分社化は与党案で、今回の救済を最後に公害多発地域の指定を解除し、患者の認定審査の窓口を閉じるという「地域指定解除」とセットだった。

 「被害者救済ではなく、加害者救済だ」という被害者団体の批判を受けて、与党は地域指定解除の条項の削除には同意した。しかし地元は「チッソを免責し、救済の幕を閉じる枠組みは変わらない」と受け止めている。

 そもそも、水俣病患者の救済がここまでこじれているのは、汚染された不知火海一帯の被害調査が一切なされなかったことが大きな原因だ。民主党案に盛り込まれた被害地域の実態把握をすることなく、この問題に終止符を打つことは許されない。

 どうにも解せないのは、特措法案のなかで、与党も民主党も、政府と司法に二つある認定基準の問題に踏み込まなかったことである。

 旧環境庁が77年につくった基準では、感覚障害だけではなく運動失調などとの組み合わせが必要とされた。ところが04年に最高裁がこの基準を事実上、否定し、感覚障害だけで患者と認め、幅広く救済する姿勢を示した。

 環境省は最高裁判決を受け、ただちに認定基準を改めるべきだった。しかし救済の枠組み全体が崩れるのを恐れてか、いまだに変えようとしない。

 これは「水俣病とは何か」という問題である。救済法案を論じる前に二重基準問題を解消することこそ、政治が決断すべきではなかったか。

 一刻も早く決着させたい。しかし安易な歩み寄りは、「公害の原点」といわれる水俣病の歴史に禍根を残す。

●西日本新聞2009年7月3日社説 水俣病法案合意 「恒久的救済」の視点欠く

 水俣病未認定患者を救済する特別措置法案の修正をめぐり、自民・公明両党と民主党が合意した。法案は、きょうにも衆院本会議で可決され、来週中には成立する見通しだという。

 厳格な医学的症状を必要とする現行の認定制度の下では救済が困難な水俣病被害者を「政治認定」によって、救済しようという立法趣旨には異存はない。

 高齢化した多くの被害者の早期救済という視点に立てば、与野党がそれぞれ提出した法案の隔たりを埋め救済策をまとめた政治の努力は多としたい。

 しかし、この法案が、水俣病問題の全面解決に欠かせない「救済されるべき被害者がもれなく適切に補償・救済される恒久的な枠組み」になり得るとは到底、思えない。

 水俣病被害者が一貫して求めているのは、原因企業チッソの加害責任とともに被害拡大を防止できなかった国の救済責任を明確にしたうえでの、多様な症状に苦しむ被害者すべての公平な救済だ。

 この視点を一つでも欠けば、水俣病問題の真の解決につながらない。

 その意味で、補償費用捻出(ねんしゅつ)のためチッソが求めていた「分社化」を法案に盛り込んだことは、水俣病被害者のそうした思いを踏みにじるものだ。多くの被害者には加害企業救済にしか映るまい。

 チッソが補償金支払いに最終同意するまで分社化手続きを始めないことを明文化するというが、分社化によって最終的には水俣病に責任を持つ会社は存在しなくなる。

 水俣病被害の全容は、いまだつかめていない。つまり救済されるべき被害者の数も明確でない。そんな段階で原因企業の消滅を意味する分社化を先行させるのは、本末転倒と言わざるを得ない。

 政治が、この法案で水俣病の「恒久的な救済の枠組み」を目指すのなら、分社化条項は救済されるべき被害者がすべて確定するまで凍結するよう求めたい。

 3党で合意した法案では、救済対象とする被害者の範囲を「手足の先ほどしびれが強い感覚障害」を有する人に限定した与党の当初案から、全身性の感覚障害や求心性視野狭窄(きょうさく)など五つの症状に広げ「より広い救済」を目指すという。

 だが、これらは既に2004年の最高裁判決で「救済基準」として司法の場で確定している。救済対象とするのは当然である。むしろ、胎児性患者特有とされる大脳症状を除外しており、もれなく救済する内容とはなっていない。

 これらの症状を有する人の疫学的要件や診断方法など救済措置基準は別途、被害者団体と協議するとしているが、「水俣病像」を幅広くとらえるのでなければ被害者の反発を招くことになる。

 「恒久的に、もれなく、被害者を救済する視点」を欠いた救済策では、法案を成立させても、水俣病問題の全面解決の道筋は見えてこない。

●朝日新聞2009年7月7日一面記事(西部本社版)

69年以降生まれに「水俣病」 救済法対象外、200人超 医師が症例確認 【西部】

 水俣病の原因企業チッソが有害な工場排水を止めた後の1969年以降、国は「新たな患者発生はない」としてきたが、現地の熊本県水俣市の医師たちの調査で、69年以降に生まれた世代に両手足のしびれなど水俣病の症状がある人がいることがわかった。水俣病問題の最終解決を目指す未認定患者救済法案では、少なくとも200人以上いるこの世代が対象から外れる。研究者らは潜在的な患者が相当数いることから同法案は全面解決にはつながらないとして、国に未認定患者を対象にした広範囲な健康調査を求めている。

=29面に関係記事

 国は、患者認定や医療費が支給される事業など水俣病の救済制度の対象から、この世代を外している。200人は認定申請中の人で「申請はできるが、認められることはない」(環境省)という。

 熊本大の水俣病研究班員だった藤野糺(ただし)医師や現地での診察歴が長い高岡滋医師は05年6月〜08年4月、チッソの工場排水が停止された68年5月から86年5月までに水俣市と周辺で生まれ育った男女40人を詳しく診察した。

 その結果、37人に手足の先や全身の感覚が鈍くなったりしびれたりする症状や、視野が狭くなるなど水俣病によくみられる症状があった。29人を「水俣病」、8人を「水俣病の疑い」と診断し、6月に中国であった水銀国際会議で発表した。これだけ、まとまった数の調査結果が出たのは初めて。

 筆と針で皮膚を刺激する一般的な検査のほか、様々な感覚の鈍さを数値で表す検査も同時に行い、汚染の影響がない地域との比較で、患者に症状があることを確認した。

 高岡医師は「胎児期と出生後の両方で(水俣病の原因である)メチル水銀の影響を受けたのではないか」とみる。

 胎児性、小児性水俣病に詳しい熊本学園大の原田正純教授も、69年以降生まれの患者を複数確認しているという。「チッソの排水が止まっても水銀ヘドロは大量に海底に残っており、水俣病が食物連鎖で起こる病気ということを考えると69年以降も発生する環境があったことは当然だ」と話す。

 チッソ水俣工場が工場排水を停止したのは68年5月18日。国は91年、中央公害対策審議会の答申に基づき「水俣病発生レベルの水銀暴露は68年まで」と結論づけた。

 その根拠として、答申は住民の頭髪や、胎児のへその緒の水銀値が一般の人とあまり変わらない、とするデータを示した。だが、それをはるかに上回る値を示す被害者がいたという研究データも見つかっている。

 答申には「科学的な結論とは言い難い」という批判があり、前国立水俣病総合研究センター所長の衛藤光明氏も「68年で汚染が一気に低くなるわけがない。当時、環境庁から聞かれたので、おかしいと言った。75年ごろまでは胎児性水俣病があってもおかしくないと思う」と指摘する。

 一方、環境省の原徳寿・環境保健部長は「これこれの症状がある、と主張されても信用できない。水俣地域には心理的バイアスがあって(体の不調があるとそれが水俣病だと)思い込む人がいるかもしれない。今から住民健康調査をしても、過去の汚染データがないのだから、メチル水銀の暴露との因果関係は分からない」と反論した。

 ◆キーワード

 <水俣のメチル水銀汚染> チッソ水俣工場がメチル水銀を含む排水を不知火海に流し、沿岸住民に有機水銀中毒症が広がった。68年に排水を停止。水俣湾には74年、汚染魚を封じ込めるとして、湾口部に仕切り網が設けられた。魚の水銀値が国の暫定規制値より下がったとして知事が97年に安全宣言をし、網は撤去された。湾内のヘドロは一定濃度以上を浚渫(しゅんせつ)、湾奥に埋め立て封印されている。

戸田補足説明 水俣病裁判の国側証人であった衛藤光明博士が「68年終焉説」(水俣病特措法の前提)の虚構性を指摘している事実は重い。

 

●「水俣病幕引き・チッソ免責」立法に対する研究者・表現者の緊急抗議声明 

水俣病の加害企業チッソ免罪を許さない!

チッソの逃亡に環境省は加担するな!

「水俣病幕引き・チッソ免責」立法に対する研究者・表現者の緊急抗議声明

本日、参議院本会議の賛成多数により、自民。公明の与党と民主党が合意した「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法案」が可決した。

73日に衆議院環境委員長提案として法の案文が関係者に提示されたが、その日のうちに衆議院の環境倭員会を審議なしで通り本会議可決6参議院の環境委員会での不十分な審議だけで、提案から一週間足らずで、被害者や関係者が異を唱える法律が成立してしまうことは強行採決と言うほかなく、国民市民に開かれた議会制民主主義の根幹を脅かす暴挙であることをまず指摘せねばならない。

そもそも、水俣病の加害企業が、全被害者の補償を行わないうちに法律によつて免責されるとは、どのような事情を勘案してもあつてはならないことで、ppp(汚染者負担原則)に照らして国際信用を損ない、国内的には他の公害薬害事件に対しても悪例となる。公害の未然防止や被害補償を原因会社の業務本体から取りはずすことが一般化すれば、企業活動や製品に由来する環境や生命への脅威は、際限なく広がってしまうであろう。

水俣病の発見から50年以上たっても問題が解決していないことは国際的に恥じるべき事であるが、解決と幕引きとは全く違う。当法案が強引な幕引きである理由は、まず、対象をあくまで申請者に限つていることである。まだまだ手を挙げきれない人たちが多数いる現実を無視している。患者個々によつて症状の重さや種類が異なることも無視している。感覚障害が認められない特徴を持つ胎児性世代が無視されている。そして更に、誰が検査をし、誰が水俣病被害者と判定するのか明確でない。本当に被害者の全面的補償救済を今度こそ図るなら、当初の民主党案にあつた住民健康調査は不可欠であろう。未認定患者救済に名を借りた幕引きは決して許されない。

しかも、この法律で認定と給付を受けるものは公害健康被害補償法の認定申請や水俣病争訟の権利を閉ざされる。他方、分社化で免責されるとチッソ相手の訴訟そのものが不可能になる。いずれも訴訟の権利を法が剥奪するもので、違憲立法の疑いもある。これも、この法律を認め難い重要な点として指摘せねばならないし、水俣病患者への補償は関西訴訟最高榔l決の示す通り国の責務でもある。しかし国の責任について、前文で「政府としてその責任を認め、おわびしなければならない」と述べながら国家による補償法になつていなし、そもそも「初めに分社化ありき」であるため法の名称や前文と内容が著しく不整合である。しかも十分な審議を経ないままの可決成立であるため、法の実働までには疑問や課題が山積している。

私たちは、多年の研究活動・表現活動を通じて培つた水俣病被害者・住民の皆さんとの知縁をもとに、今後も「水俣病幕引き」「チッソ分社化一株売却二清算」を許さず、水俣病被害の一層の解明をめざし続けることをここに声明する。

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賛同者名 (以下連名)

相川泰(鳥取環境大学)、アイリーン美緒子スミス (環境ジャーナリスト)、青柳行信(NGO人権・正義と平和連帯フォーラム福岡)、芥川仁、粟屋かよ子(四日市大学)、石橋涼子(医師)、石牟礼道子、磯野弥生(東京経済大学)、一ノ瀬正史(映画キャメラマン)、伊藤貴雄(創価大学)、稲垣聖子(立教大学大学院生)、井上‐ゆかり(熊本学園大学水俣学研究センター)、色川大吉(歴史家・元不知火総合学術調査団団長)、牛島佳代(福岡大学)、柄本美代子(東京国際大学)、遠藤宏― (南山大学教授)、大津愛子(熊本学園大学)、奥田みのり(ライター)、尾崎寛直(東京経済大学)、小野塚春吉(財団法人政治経済研究所)、金子満里(荒馬座座員)、鎌田慧(ルポライタ‐)、川島宏知(「天の魚」)、川俣修壽(ジャーナリスト)、神戸英彦(新潟大学)、北村浩(財団法人政治経済研究所)、鬼頭秀― (東京大学)、窪田泰(低周波音症候群被害者の会 臨時代表)、久保田好生(季刊「水俣支援」編集部)、熊谷博夫(福岡工業大学)、栗原彬(立命館大学)、黒田光太郎(名古屋大学)、小池征人(映画監督)、小林繁(明治大学・ほっとはうす理事)、小林直毅(法政大学) 、最首悟(和光大学名誉教授)、斎藤純一 (早稲田大学)、斉藤恒(木戸病院名誉院長)、坂巻幸雄(元通産省地質調査所主任研究員)、塩田武史(写真家)、下田守(下関市立大学)、自木喜―郎(「天の魚」同行人)、自鳥紀一(元 九州大学)、自山映子(東京大学大学院博士課程)、末石富太郎(大阪大学・滋賀県立大学名誉教授)、杉本裕明

(ジャーナリスト・環境カウンセラー)、杉山さゆり(デザイン事務所勤務)、菅井益郎(国学院大学)、鈴木―誌(ブックデザイナー)、鈴木文枝(編集者)、関耕平(島根大学)、関礼子(立教大学)、関島保雄(弁護士 前公害弁連幹事長)、成元哲(中京大学)、高岡滋(榊経内科リハビリテーション協立クリニック院長)、高石伸人(NPO法人ちくほう共学舎「虫の家」事務局長)、高草木光一(慶應義塾大学)、竹村洋介(近畿大学) 、田尻雅美(熊本学園大学水俣学研究センター)、多羅尾幸徳(東京農工大学)、丹波博紀(東京大学大学院生)、土本基子(映画同人シネ・アソシエ)、ティモシー ジョージ(米ロードアイランド大学 歴史学)、土井妙子(金沢大学)、堂前雅史(和光大学)、富樫貞夫(熊本学園大学)、中村志真(荒馬座座員)、中村淳子(東京大学学生)、西尾漠(NPO法人 原子力資料情報室共同代表)、西山正啓(記録映画作家)、野口淑子(中学校教諭)、萩原修子(熊本学園大学)、畑明郎(大阪市立大学特任教授)、花崎皋平(著述業)、花崎攝(演劇デザインギルド)、花田昌宣(熊本学園大学)、原田正純(熊本学園大学)、伴英幸(PO法人原子力資料情報室共同代表)、日吉フミコ(水俣病市民会議)、藤野糺(水俣協立病院名誉院長)、藤本延啓(熊本学園大学水俣学研究センター)、藤原寿和(公害薬害職業病補償研究会)、舩橋晴俊(法政大学)、古沢広祐(国学院大学)、古谷杉郎(公害薬害職業病補償研究会)、細俗孝(中央大学)、星埜守之(東京大学)、堀孝彦(名古屋学院大学名誉教授)、堀正嗣(熊本学園大学社会福祉学部)、堀川三郎(法政大学社会学部)、本間慎(フェリス女学院大学前学長)、松田健児(創価大学法学部)、松本勉(水俣病市民会議)、丸山定巳(熊本大学客員教授)、丸山徳次(龍谷大学)、宮河伸行(荒馬座座員)、宮北隆志(熊本学園大学水俣学研究センター)、宮澤信雄(水俣病事件研究者)、宮本憲一(大阪市立大学名誉教授)、宮本成美(写真家)、村山武彦(早稲田大学)、柳田邦男(ノンフィクション作家)、山口幸夫(NPO法人原子力資料情報室共同代表)、山下英俊(一橋大学)、除本理史(東京経済大学)、吉崎久美子(熊本学園大学)、吉田喜一(都立産業技術高専教授)、吉田志賀子(低周波音症候群被害者の会)、吉村良― (立命館大学法務研究科教授) 2009:7.8.109

●朝日新聞2009年7月9日 (社説)水俣病特措法 真の救済とするためには

 水俣病の未認定患者の救済を目指す特別措置法が成立した。95年に続く「第2の政治決着」である。

 環境省によると、救済を求めている約3万人のうち2万人以上が救われる可能性があるという。95年の政治決着では救済対象者を水俣病と認める文言さえなかったが、今回の法律には「水俣病被害者」と明記された。

 高齢化した多くの被害者の早期救済という観点からは、政治の努力を多としたい。しかしなお失望を禁じ得ないのは、今回の救済策でもう一つ新たな水俣病の概念が生まれ、そこからも取り残される人々が存在するからだ。

 水俣病にはこれまでも、公害健康被害補償法に基づく認定患者、95年の「政治決着」を受け入れた被害者、04年の関西訴訟の最高裁判決で勝訴した被害者と、症状の基準や補償額が異なる三つの被害者が存在している。

 メチル水銀による同じ中毒症なのに、なぜばらつきが出るのか。それは政府が77年につくった認定基準を、かたくなに見直さなかったからである。

 04年に最高裁が現行の認定基準よりも幅広く救済する基準を打ち出した。環境省はそれを受けて基準を改めるべきだったが、救済の枠組みが崩れるのを恐れて棚上げにしてきた。

 また特措法ではチッソの分社化が認められた。負債を受け持つ補償会社と事業会社に分け、事業会社の株式を売って補償金に充てる。売却後に補償会社は清算されて原因企業は消滅する。

 原因企業が消えた後、潜在患者らが補償を求めた場合、だれが責任を負うのか。そんな被害者の不安は、いずれにせよ、最終的には国や県が責任を担うとすることで解消すべきだ。最高裁判決も行政の責任を認めている。

 今回、救済対象となる症状は「手足の先ほどしびれる感覚障害」に限った95年決着よりも大幅に広がった。

 しかし、民主党が求めていた大脳皮質障害による知的障害などは除外された。母胎内で水銀を浴びた胎児性水俣病に特有とされる症状である。今後、40〜50代になった胎児性の未認定患者が多く手を挙げるだろう。その救済の責任は行政がとらねばならない。

 さらに、チッソが有害な排水を止めた後の69年以降に生まれた人は特措法の枠外にいる。ところがその世代に、手足のしびれなど水俣病の症状がある人がいることが最近わかった。

 この世代が被害補償を訴える場は法廷しかない。もし裁判で被害が認められれば、95年の政治決着を最高裁判決が覆したのと同様の事態が繰り返される可能性がある。

 戦後最大の公害事件を決着させる仕事は終わっていない。政府はまず、汚染地域全体の被害調査をし、そして認定基準を見直すことをいま一度、検討すべきではないか。

●毎日新聞2009年7月9日社説

社説:水俣病救済法成立 真の解決にはまだ遠い

 水俣病未認定患者の救済を目指す特別措置法案が8日、参院で可決、成立した。自民、公明の与党と民主党が個別法案を共同修正、一本化した法案で、解散含みの国会情勢下での妥協の産物にほかならない。95年に続く第2の政治決着そのものだ。

 与党にとっては、原因企業であるチッソに一時金の支払いを受け入れさせる、事業会社と補償実施・公的債務返済会社に分割する構想が残ったことの意味は大きい。民主党は、救済対象者の拡大や救済が終了した時点での公害健康被害補償法(公健法)の指定地域解除の条文を削除したことなどを成果としている。

 しかし、与党案にあった「最終解決」から最終が削除されたことに示されているように、特措法で水俣病問題が真に決着することはありえない。水俣病問題への幕引きの法律そのものではなくなったというに過ぎない。このことは当事者自身が認識しているはずだ。

 95年の自民・社会・さきがけ連立政権の政治決着が、問題解決にならなかったことを検証すれば、公健法に基づく認定作業や認定基準の見直しが必須なことはわかったはずだ。最低限、公健法による救済との二本立てにしておくことは必要である。日本弁護士連合会が先に公表した提案のような認定基準の見直しを目的としつつも、未認定患者を幅広く救済する制度と位置付ければいい。

 しかし、与党と民主党の修正協議に認定基準問題は入ってこなかった。当面、形の上では公健法と特措法の二本立てになるが、行政が77年の厳しい基準を堅持する以上、認定される患者は限られる。公健法は救済の道具としてあまり期待できない。指定地域の解除は特措法で規定しなくても、公健法でできる。それにより、認定申請は打ち切られる。

 認定申請者は熊本県、鹿児島県、新潟県合わせて6000人を超している。民主党も真の解決を目指すのであれば、関西訴訟で確定した一つの症候でも有機水銀中毒と認定する77年以前の基準に戻すことにこだわるべきだった。水俣病では時間の経過で症状が緩和するわけではない。悪化や症状は新たに表れることも確認されている。水俣病は終わっていないのだ。

 チッソの分社化容認で、いずれ、補償実施・公的債務返済会社が解散すれば、水俣病の原因者は消滅する。与党は、紛争が終結しなければ解散できないというものの、その保証はあるのか。公害補償の原則である汚染者負担原則は維持されるのか。

 関西訴訟の結審後、熊本、新潟では相次いで新たな訴訟が提起されている。特措法が成立しても裁判は続く。最終解決は全く見えない。

 

●しんぶん赤旗2009年7月9日

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik09/2009-07-09/2009070914_01_1.html

「水俣病法」強行成立

「企業免罪許さない」

被害者 全員救済へ決意新た

 自民、公明、民主の3党合意から1週間足らずで成立した「水俣病特別措置法」。熊本、新潟から上京して参院本会議を傍聴した水俣病被害者は、参院議員会館、国会前、東京・銀座のマリオン前の3カ所で緊急行動をし、「救済に名を借りた加害企業の免罪は許さない」と抗議しました。

 参院本会議採決直後の緊急抗議集会で、新潟水俣病阿賀野患者会の山崎昭生会長は「私たちは司法の場でもたたかっていく」と表明。水俣病被害者互助会の佐藤英樹会長も「公害の原点、水俣病の教訓をなんだと思っているのか。友愛といいながら民主党の党首が被害者と会おうともせず、被害者を無視して採決するとは…」と怒りました。

 水俣病不知火患者会の大石利生会長は「法案に賛成した人たちの良識を疑います。私たちは、心を新たにしてたたかいに挑みます」とのべ、胎児性水俣病被害者の永本賢二さんも「胎児性水俣病患者のぼくたちも、団結して、立ち上がっていかんと…」と不自由な手を震わせながら訴え、大きな拍手に包まれました。

 銀座マリオン前で街頭宣伝に立った女性(65)は「なんで私たちはこんな目にあわなければならないのか。一人ひとり水俣病患者の症状は違うけど、一生苦しまなければならない。子どもたちの代までも裁判を起こさないと救済されないのか」と訴えました。

 参院議員面会所の抗議行動には、日本共産党の市田忠義書記局長のほか、赤嶺政賢衆院議員と仁比聡平、紙智子、山下芳生、井上哲士の各参院議員が参加しました。

 仁比議員は「力をあわせてすべての被害者救済に全力を尽くす」とあいさつしました。

 “民主党の責任は重大”

患者3団体抗議

 自公民が8日、患者切り捨ての「水俣病特措法」を強行成立させたことで、裁判でたたかっている患者3団体が同日熊本市内で連名の抗議声明を出し、あらためて司法解決をめざしていく決意を明らかにしました。声明を出したのは、水俣病不知火患者会、水俣病被害者互助会、新潟水俣病阿賀野患者会。

 熊本市内での記者会見では、中嶋武光原告団副団長が、衆院では一切審議せず、参院でも1回の委員会審議で成立させたことに抗議し「この法律で唯一はっきりと決まっているのはチッソをはじめとする加害企業の分社化の容認である。水俣病の問題の解決を、加害者である行政に任せておくことはできない」との声明を発表。

 園田昭人弁護団長は「特措法は、チッソ救済だけ。民主党は自分で法案を出しながら、トップで変えた。民主の責任は重大。『救済』を環境省が取り仕切るのでは解決できない。95年の政治解決では司法を無視したから、また裁判がおきた。ますます司法救済制度の確立が求められている」と特措法を批判しました。

研究者ら109人が連名で抗議声明

 「水俣病特別措置法」の成立に対して、ノンフィクション作家の柳田邦男氏、宮本憲一大阪市立大学名誉教授ら109人が8日、「水俣病幕引き・チッソ免責立法」と批判する緊急抗議声明を発表しました。

 声明は、「水俣病の加害企業が、全被害者の補償を行わないうちに法律によって免責されるとは、どのような事情を勘案してもあってはならないこと」と批判しています。

新婦人も抗議文

 新日本婦人の会(高田公子会長)は8日、水俣病法案が成立したことをうけて自民、公明、民主3党の党首に抗議文を送りました。

 抗議文は「法案に(被害者)救済の具体的内容はなく、今後、環境省が決めるとしています。これでは、大量の潜在的被害者が切り捨てられてしまいます」と強調し、「水俣病の全容解明、被害者全員救済へと政策を抜本転換する」ことを強く要求しています。

●朝日新聞2009年9月28日 (社説)水俣病検診 新政権は被害実態に迫れ

 熊本、鹿児島両県の不知火海沿いの各地で先週、水俣病被害の実態を調べる「住民健康調査」が被害者団体や医師らによって実施された。

 20代から90代までの1051人が受けた。千人規模のこうした住民検診は、水俣病訴訟の原告団が1987年に行って以来22年ぶりである。

 早ければ月内にも症状を分析して中間発表する予定だが、受診者が訴えた、メチル水銀の影響が疑われる健康被害の広がりは衝撃的だ。

 受診者の大半は、これまで公害健康被害補償法(公健法)に基づく水俣病認定や救済措置には名乗り出ていない人たちである。にもかかわらず、その9割以上は手足のしびれなど水俣病の典型的な神経症状が見られるとして、救済措置を求める方針という。

 357人が手足の先になるほど感覚が鈍る四肢末梢(まっしょう)優位の障害などがあるとして認定を申請する予定だという。603人は一定の神経症状があるとして保健手帳の交付を請求する意向だ。

 調査には、環境省が被害の全体像を把握しないまま水俣病患者を決めてきた「二つの線引き」の不合理さをあぶり出す狙いもある。

 線引きの一つは、チッソ水俣工場が不知火海への有害物質の排水を止めた翌年の69年以降に生まれた世代には水俣病の症状はないとする考え方だ。もう一つは、公健法で水俣病発生の地域を熊本県水俣市や鹿児島県出水市などに限定した地域区分だ。

 実際には、排水しなくなっても海底のヘドロなどによる汚染は残った。汚染魚が行商を通じて指定地域外に広く出回ったことも周知の事実である。

 今回は、69年以降の出生で政府の救済措置から外れている世代から27人が検診を受けた。救済の対象地域外に住んでいる人も多く受診した。

 7月に成立した水俣病被害者救済法の実施に向けた作業がこれから始まる。救済の対象者を3年以内をめどに確定させるとしているが、どういう人を救済するかまだ詰まっていない。

 環境省は今回の検診について「水俣病と同じ症状があったとしても、メチル水銀汚染だとは証明できない」と主張して調査の必要性を否定した。地元の医師らは「これほど健康被害が集中する原因はチッソの汚染以外に考えられない」と反論している。

 被害者の高齢化を考えれば、救済は急がねばならない。だがその前に鳩山政権は、水俣病の実相を究明しないまま問題を終わらせようとしてきた従来の姿勢と決別する必要がある。被害の全体像に真摯(しんし)に迫ってほしい。

 政府はまず腰をすえた健康調査に着手すべきだ。そのうえで、患者の年齢などによる機械的な線引きや、被害地域の指定についても、それが妥当なのか検証することが不可欠だ

2009113()「しんぶん赤旗」

主張   水俣病大検診   未解決の患者すべての救済を

 民間の医師や水俣病の被害者7団体でつくる「不知火海沿岸住民健康調査実行委員会」は、9月に実施した熊本、鹿児島両県の不知火海沿岸住民に対する大規模検診の分析結果を公表しました。

 水俣病特有の症状をもつ人のなかには、公害健康被害補償法(公健法)の指定地域以外の患者や、国が「新たな水俣病の発症はない」とした1969年以降生まれの人たちも数多く含まれています。大検診の結果は国の認定基準が被害実態を反映していなかったことを示しています。国による被害実態調査と認定基準の根本的見直しが不可欠です。

被害実態うきぼりに

 今回の大検診は被害実態を解明するために行われたものです。行政責任を逃れるために、調査対象を約1万人に絞り込んだ不完全な調査しかしてこなかった国への、大きな問題提起となりました。

 1044人が検診を受けました。水俣病の未認定者974人のうち93%にあたる904人が、手足の先のしびれや口周囲の感覚障害など水俣病特有の症状であると診断されました。

 見過ごせないのは水俣病の認定を申請していない人が867人と多いことです。家族に水俣病患者がいることがわかると娘が嫁にいけないとか、地域の付き合いができなくなるといった「差別」を理由にあげた人が396人もいます。「差別」を恐れていまなお申請さえできない被害者が、水俣病に苦しみながらひっそりと暮らしている実態がみえてきます。

 「情報がなかった」からという人も354人います。こうした実情をつかまないで水俣病被害者救済の道を開くことなどできるはずはありません。

 公健法の指定地域以外の上天草市などから受診した213人中、199人が水俣病の症状を確認されたことは重大です。被害者が広い地域にいることを示しているからです。公健法の指定地域そのものの不備が確認された以上、指定地域の見直しも必要です。

 69年以降生まれた人や不知火海沿岸に移り住んだ少なくない人たちに症状が確認されたことも問題です。68年に加害企業のチッソが有機水銀の流出をやめた以後は、「新たな水俣病の発症はない」といってきた国の説明のいいかげんさが露呈したのです。水俣病被害を小さく見せてきた国の卑劣な態度を容認するわけにはいきません。

 大検診の結果、国の水俣病対策の全体に不備と欠陥があることがわかりました。検診は民間のやったことといって無視するのではなく、国がみずから不知火海沿岸住民の健康診断を行い、被害の実相を明らかにする必要があります。

特措法は廃止せよ

 指摘しなければならないのは、7月に自公と民主が駆け込みで成立させた「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法」では救済は不可能だということです。水俣病認定申請者や保健手帳保持者の多くが救済の対象外にされるおそれがあります。

 特措法には国とチッソを免罪する問題もあります。水俣病の被害者を切り捨てる特措法は廃止するしかありません。

 そのうえで被害者を切り捨ててきた国の水俣病認定基準を見直し、被害者すべてを救済する恒久的対策をつくるべきです。

●参考文献紹介 

上記資料とともに、次の3点は必読。チッソ、熊本県議会、御用学者(特に医学と法学)、環境省、自民党、公明党、民主党、読売新聞などの責任は実に重大である。

『医学者は公害事件で何をしてきたのか』津田敏秀(岩波書店2004年)

『水俣病事件と認定制度』宮澤信雄(熊本日日新聞社2007年)

『環境正義と平和 「アメリカ問題」を考える』戸田清(法律文化社2009年)「第3章 水俣病事件における食品衛生法と憲法」、第1章表1−2(13頁)、「資料−1 新聞社説の比較」(巻末)この拙著では、3月刊行のために校正を2月に終了したので、今回の特措法については、91頁に「付記 与党プロジェクトチームは、救済策を三年限りとし、水俣病の認定審査も終了する方針を固めたとのことで、さらなる混乱を招こうとしている(朝日新聞2009年2月14日)。」と述べるところまでしか、フォローできなかった。

 

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