原発被曝労働と放射性廃棄物問題(環境社会学Ⅰでの映像使用例)
2008年5月14日 2008年7月18日改訂
●文章作成中●
『隠された被曝労働-日本の原発労働者 』Nuclear Ginza(英国チャンネル4で1995年放映)日本語版 VHS25分
NHKは国策に反するので放映不可能、民放はスポンサー(九州電力ほか)の意に反するので放映不可能のため、日本語版は自主制作された。 通産省はコメントを拒否した。樋口健二出演(原発反対なのに喫煙)
「テレビ朝日報道ステーション 日本の原子力発電が新しい段階に まもなく六ヶ所村で再処理施設本格稼働 その内部を独占取材・安全性と必要性を問う」NCC2008年4月11日放映 10分 司会:古館伊知郎、コメンテーター:月尾嘉男(東京大学名誉教授・工学博士)月尾博士は、米国ハンフォード核施設の汚染に言及。
月尾嘉男の著書『縮小文明の展望:千年の彼方を目指して』(東京大学出版会2003年)をこのウェブサイトの「推奨文献リスト」に入れている。
5月12日(月曜クラス)/5月●日(火曜クラス)
●参考文献
★原発推進派
『原子力の社会学』田中靖政(電力新報社、1982年)1931年生まれ、学習院大学名誉教授、社会学者。
『チェルノブイリシンドローム : 原子力の社会学part 2』田中靖政(電力新報社、1989年)
『やさしい原子力Q&A
: そのしくみと安全性、チェルノブイリ、各種新型炉、核融合』近藤駿介(山下出版、1988年)
『原子力の安全性』近藤駿介(同文書院、1990年)1942年生まれ、東大工学部教授
『やさしい原子力教室Q&A』近藤駿介(ERC出版、1991年)
『私はなぜ原子力を選択するか:21世紀への最良の選択』バーナード・L.・コーエン、近藤駿介監訳(ERC出版1994年)
『原子力発電所で働く人々』近藤駿介編(ERC出版1998年)
『JCO事故と今後の原子力開発利用』近藤駿介(経済広報センター2000年)
『原子力安全確保に向けての新しい考え方』近藤駿介(日本科学技術連盟2004年)
『核燃料サイクル工学』鈴木篤之・清瀬量平(日刊工業新聞社1981年)1942年生まれ、東大工学部教授
『原子力の燃料サイクル』鈴木篤之(電力新報社1985年)
『90年代のエネルギー
: 環境制約への挑戦』鈴木篤之・加納時男(日本経済新聞社1990年)
『プルトニウム』鈴木篤之編(ERC出版1994年)
『プルトニウムの安全性評価』松岡理(日刊工業新聞社1993年)放射線医学総合研究所、農学博士・獣医師。
『核燃料サイクル関連核種の安全評価 : 比較放射毒性学』松岡理(日刊工業新聞社1995年)
『プルトニウム物語
: プルサーマルをめぐって』松岡理(ミオシン出版1998年)
『天然原子炉』藤井勲(東京大学出版会1985年)
『どう見る?どう考える?放射性廃棄物』鳥井弘之(エネルギーフォーラム、2007年)日経新聞から東工大教授。
『原子力ルネサンスの風 海外最新レポート』電気新聞海外原子力取材班(日本電気協会新聞部、2006年)
『「青森・東通」と原子力の共栄』渡部行(東洋経済新報社2007年)
『核燃料サイクル20年の真実 六ヶ所村再処理工場始動へ』塚原晶大(日本電気協会新聞部、2006年)
★原発反対派あるいはそれに近い
『知られざる原発被曝労働』藤田祐幸(岩波ブックレット、1996年)★嶋橋労災を支援した物理学者(神奈川から長崎県西海市に移住)の記録。原発労働者被曝の入門書としてはまずこれを読むといいだろう。広島・長崎の被爆者30万人、原発被曝労働者30万人
『闇に消される原発被曝者』樋口健二(御茶の水書房、2003年)三一書房1981年の増補版★
『原発 : 樋口健二写真集 フォトドキュメント』樋口健二(オリジン出版センター1979年)★
『アジアの原発と被曝労働者』樋口健二(八月書館1991年)
『原発被曝列島』樋口健二(三一書房1987年)
『これが原発だ
: カメラがとらえた被曝者』樋口健二(岩波ジュニア新書1991年)
『原発被曝日記』森江信(講談社文庫1989年)
『原発ジプシー』堀江邦夫(講談社文庫1984年)
『息子はなぜ白血病で死んだのか』嶋橋美智子(技術と人間1999年)浜岡原発嶋橋労災認定の記録
『被曝労働者にも健康管理手帳を!』(放射線作業離職者に健康管理手帳を!全国連絡会2005年)★
『被曝国アメリカ
: 放射線災害の恐るべき実態』ハーヴィ・ワッサーマン他、茂木正子訳(早川書房1983年)
『ヒバクシャ・イン・USA』春名幹男(岩波新書1985年)
『ヒロシマを生きのびて 被爆医師の戦後史』肥田舜太郎(あけび書房、2004年)肥田は広島被爆者で医師。広島原爆と長崎原爆の二重被爆は映画にもなったが、この本には長崎原爆と原発被曝労働の二重被曝の事例が紹介されている。
『敦賀湾原発銀座「悪性リンパ腫」多発地帯の恐怖』明石昇二郎(技術と人間1997年)
『原発崩壊』明石昇二郎(金曜日、2007年)
『人形峠ウラン鉱害裁判 核のゴミの後始末を求めて』土井淑平・小出裕章(批評社、2001年)
『人形峠ウラン公害ドキュメント』榎本益美(北斗出版、1995年)小出裕章解説
『隠れて核武装する日本』槌田敦・藤田祐幸ほか(影書房、2007年)
『高速増殖炉もんじゅ巨大核技術の夢と現実』小林圭二(七つ森書館1994年)京大原子炉実験所
『原子力と共存できるか』小出裕章・足立明(かもがわ出版1997年)
『放射能汚染の現実を超えて』小出裕章(北斗出版1992年)京大原子炉実験所
『浜岡原発の危険住民の訴え』伊藤実・小出裕章・神戸泰興・柳沢静雄・藤原照巳・吉川雅宏・長野栄一・嶋橋美智子・伊藤眞砂子・田島五郎(実践社2006年)
『日本を滅ぼす原発大災害 : 完全シミュレーション』坂昇二,前田栄作(小出裕章監修)(風媒社2007年)
『放射能がクラゲとやってくる』水口憲哉(七つ森書館2006年)水産学者
『原子力の社会史』吉岡斉(朝日新聞社1999年)科学史
『日本の電気料金はなぜ高い:揚水発電がいらない理由』田中優(北斗出版2000年)
『原子力神話からの解放:日本を滅ぼす九つの呪縛』高木仁三郎(光文社2000年)
『下北半島六ケ所村核燃料サイクル施設批判』高木仁三郎(七つ森書館1991年)附・地盤が悪く、地震にも弱い施設(生越忠)
『温暖化防止に原発!?』(原子力資料情報室、2001年)
『原子力市民年鑑2007』原子力資料情報室編(七つ森書館2007年)
『原発をすすめる危険なウソ 事故隠し・虚偽報告・データ改ざん』西尾漠編(創史社、1999年)
『どうする?放射能ゴミ』西尾漠(緑風出版2005年)
『原子力政策大綱批判』伴英幸(七つ森書館2006年)
『最底辺 : トルコ人に変身して見た祖国・西ドイツ』ギュンター・ヴァルラフ、マサコ・シェーンエック訳(岩波書店、1987年)ドイツの原発被曝労働者はトルコ人が多い。米国は黒人が多い。
『差別としての原子力』清水修二(リベルタ出版1994年)経済学者
『孤立する日本の原子力政策』日本弁護士連合会公害対策・環境保全委員会(実教出版1994年)
『環境学と平和学』戸田清(新泉社2003年)
『原発は差別で動く 反原発のもうひとつの視角』八木正編(明石書店1989年)著名な社会学者
『環境運動と新しい公共圏 : 環境社会学のパースペクティブ』長谷川公一(有斐閣、2003年)
『脱原子力社会の選択 : 新エネルギー革命の時代』長谷川公一(新曜社1996年)環境社会学
「巻町住民投票の社会運動論的分析」長谷川公一『環境と公害』29巻3号 岩波書店2000年
「放射性廃棄物問題と産業廃棄物問題」長谷川公一『環境社会学研究』6号、2000年
『巨大地域開発の構想と帰結 むつ小川原開発と核燃料サイクル施設』舩橋晴俊・長谷川公一・飯島伸子編(東京大学出版会1998年)環境社会学
「原子力発電所建設問題における住民の意思表示 新潟県巻町を事例に」山室敦嗣『環境社会学研究』4号 環境社会学会 1998年
『子どもと話そう原子力発電所:おもしろ学校公開授業の記録』名取弘文(農山漁村文化協会1989年)小学校教師
『原発列島を行く』鎌田慧(集英社新書2001年)
『高レベル放射性廃棄物処分場こうして止めた! ここが知りたいQ&A』反原発運動全国連絡会議編(反原発運動全国連絡会議2007年)。
『ロッカショ : 2万4000年後の地球へのメッセージ』Stop-Rokkashoプロジェクト(講談社2007年)再処理★
『核燃料サイクルの闇
: イギリス・セラフィールドからの報告』秋元健治(現代書館2006年)
★その他
『EDMC/エネルギー・経済統計要覧2008年版』日本エネルギー経済研究所編 財団法人省エネルギーセンター2008年
●映像
『六ヶ所村ラプソディ』鎌仲ひとみ監督、2007年、グループ現代
●ウェブサイト
★原発推進派
経済産業省 http://www.meti.go.jp/
原子力発電環境整備機構(NUMO) http://www.numo.or.jp/
電気事業連合会 http://www.fepc.or.jp/
電源開発(Jパワー) http://www.jpower.co.jp/
東芝 http://www.toshiba.co.jp/index_j3.htm
日本原子力研究開発機構 http://www.jaea.go.jp/index.shtml
日本原子力産業協会(旧称日本原子力産業会議) http://www.jaif.or.jp/
日本原子力文化振興財団 http://www.jaero.or.jp/
日立製作所 http://www.hitachi.co.jp/
幌延深地層研究センター(北海道) http://www.jaea.go.jp/04/horonobe/index.html
瑞浪超深地層研究所(岐阜県) http://j030x070.jaea.go.jp/04/tono/miu/mium.html
文部科学省 http://www.mext.go.jp/
★原発反対派あるいはそれに近い
ウラン残土訴訟を支援する会http://uranzando.jpn.org/uranzando/
ウラン残土撤去闘争連帯 http://www.jca.apc.org/mihama/zando/zando_room.htm
核のごみキャンペーン関西 http://www2.gol.com/users/amsmith/
核のゴミと対馬を考える会(ブログ) http://thinkabouttsushima.blog95.fc2.com/blog-category-6.html
鎌仲ひとみ(映像作家)
グループ現代http://www.g-gendai.co.jp/
「六ヶ所村ラプソディ」http://ameblo.jp/rokkasho/
「ヒバクシャ」 http://www.g-gendai.co.jp/hibakusha/
上五島住民新聞(ブログ版) http://blog.goo.ne.jp/goto_kaikaku
環境エネルギー政策研究所http://www.isep.or.jp/
環境と原子力の話(末田一秀)http://homepage3.nifty.com/ksueda/
グリーンアクション http://www.greenaction-japan.org/modules/jptop1/
グリーンピース・ジャパン http://www.greenpeace.or.jp/campaign/nuclear/plutonium/rokkasho/
原子力安全研究グループ(京都大学、小出裕章ほか) http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/index.html
原子力空母の横須賀母港問題を考える市民の会 http://cvn.jpn.org/cvn/
原子力資料情報室http://cnic.jp/
原発震災を防ごうhttp://genpatsu_shinsai.at.infoseek.co.jp/
三陸の海を放射能から守る岩手の会 http://homepage3.nifty.com/gatayann/env.htm
ストップ・ザ・もんじゅhttp://www.eonet.ne.jp/~roba/monju/index.html
ストップ・ロッカショ(核燃料再処理) http://stop-rokkasho.org/ http://stop-rokkasho.jp/
たんぽぽ舎 http://www.tanpoposya.net/
チェルノブイリ医療支援ネットワーク http://www.cher9.to/
チェルノブイリ子ども基金 http://www.smn.co.jp/cherno/
反原発運動全国連絡会 http://www.hangenpatsu.net/
ヒバク反対キャンペーンhttp://www1.odn.ne.jp/hibaku-hantai/ ★
平井憲夫さんのホームページ(原発労働者[故人]の遺言) http://www.iam-t.jp/HIRAI/ ★
プルサーマルと佐賀県の100年を考える会 http://www7b.biglobe.ne.jp/~pulusagamaru/index.html
プルサーマルを考える柏崎刈羽市民ネットワーク http://www.kisnet.or.jp/net/mainpage.htm
放射性廃棄物スソ切り問題連絡会 http://www2.gol.com/users/amsmith/susokiri.html
美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会(美浜の会) http://www.jca.apc.org/mihama/
ヤスタロウの[高知県]東洋町長日誌 http://sawayama.cocolog-nifty.com/blog/cat11698671/index.html
れんげ通信(放射能のゴミはいらない 市民ネット・岐阜)http://www5b.biglobe.ne.jp/~renge/
六ヶ所村ペイフォワードPROJECT http://6payitforrward.web.fc2.com/
原子力エネルギーと別れ豊かに暮らす仕組みづくり(田中優講演ビデオ)ほか
わかめの会(三陸・宮城の海を放射能から守る仙台の会) http://lmswkm.net/
原子力教育を考える会 http://www.nuketext.org/index.html
●環境問題のなかで原発問題は最も意見の不一致が多い分野であろう。長崎大学環境科学部教員(49人)のなかにも当然「原発賛成」と「原発反対」がいる。「保留」もたぶんいるだろう。意見の不一致は当たり前である。意見がすべて統一されていたら、全体主義的で気持ちが悪い。現在の日本は、北朝鮮や戦前の日本と違って、言論の自由が保障されている。環境運動・環境学・環境行政の意見分布の違いにも注意しておいてもらいたい。環境運動はもちろん反原発が圧倒的多数である。環境学では原発賛成のほうが多数派かもしれない。ただし環境社会学は原発反対が多数を占める。環境行政も原発賛成が多いのではないだろうか。環境省でさえ、国の原発増設計画(経済産業省・文部科学省)を前提に地球温暖化対策を考えている。原発反対運動に参加する地方公務員は少なくない。
●原発労働者の労災認定状況(2007年3月末現在
病名 |
申請 |
申請先労働基準監督署 |
結果 |
|
皮膚炎 (岩佐嘉寿幸さん) 1971年5月に被曝して放射線皮膚炎 2000年10月11日死去、77歳 |
1975年3月19日 |
敦賀(福井県) |
1975年10月9日 1975年12月19日 1976年10月18日 1976年12月22日 1994年6月10日 |
不支給 福井労働基準局に審査請求 棄却 労働保険審査会に再審査請求 棄却 |
白血病性悪性リンパ腫 |
1982年5月31日 |
松江(島根県) |
? |
不支給 |
慢性骨髄性白血病(福島原発で1979-80年の11ヶ月で40ミリシーベルト) |
1988年9月2日 |
富岡(福島県) |
1991年12月26日 |
支給(白血病初) |
急性骨髄性白血病 |
1992年12月1日 |
神戸西(兵庫県) |
1994年7月27日 |
不支給 |
急性骨髄性白血病 |
1992年12月14日 |
神戸西(兵庫県) |
1994年7月27日 |
支給(2人目) |
慢性骨髄性白血病(1980-89年の9年間で集積線量51ミリシーベルト 中部電力孫請け会社の嶋橋伸之さん) |
1993年5月6日死後に両親が申請 |
磐田(静岡県) |
1994年7月27日 |
支給(3人目) |
再生不良性貧血 |
1996年5月27日 |
富岡(福島県) |
? |
不支給 |
慢性骨髄性白血病 |
1997年5月16日 |
富岡(福島県) |
? |
不支給 |
急性リンパ性白血病 |
1998年12月22日 |
富岡(福島県) |
1999年7月30日 |
支給(4人目) |
急性放射線症 (JCO社員3人) |
1999年10月20日 |
水戸(茨城県) |
1999年10月26日 00年1月?5月19日 |
支給 死亡者2名に追加支給 |
急性単球性白血病 |
1999年11月20日 |
富岡(福島県) |
2000年10月24日 |
支給(白血病5人目) |
多発性骨髄腫(福島原発で1977-82年に集積線量で70ミリシーベルト)長尾光明さん |
2003年1月9日 2003年1月14日 |
大阪中央 富岡に回送 |
2004年1月13日 |
支給(多発性骨髄腫初) |
急性リンパ性白血病 |
2005年10月8日 |
富岡(福島県) |
2006年9月15日 |
不明 |
NK細胞リンパ腫 |
2005年10月28日 |
淀川(大阪府) |
2006年9月4日 |
不支給 |
急性リンパ性白血病 |
2006年2月15日 |
富岡(福島県) |
|
審査中 |
美浜3号事故(2004年)の死亡者5人(PWRの二次系配管破断による大量の熱湯噴出なので、放射線被曝事故ではない)にも04年12月-05年1月に支給決定。
『原子力市民年鑑2007』原子力資料情報室編(七つ森書館2007年)226頁の表に加筆。
長尾労災については、http://www.jca.apc.org/mihama/rosai/iken030805.htm を参照
やはり老朽化した沸騰水型原発で被曝が多いようである。(福島原発、島根原発)
●放射線被曝労働
もちろん訓練を受け、防護服を着用することが原則である。「マスクも訓練もなく」は1970年代初期のこと。作業場所の線量率が50ミリレントゲン/時の場合、1日の被曝線量の限度を1ミリシーベルト(自然放射線1年分)とすれば、2時間の作業しかできない。通常の8時間労働に比べると4倍の人手が必要になる。また20日働くと年間許容線量(20ミリシーベルト=自然放射線20年分)に達してしまう。仮に1日2ミリシーベルト(自然放射線2年分)まで可能とすれば、10日で年間許容線量に達する。「原発1年分の放射能を再処理は1日で放出する」と言うが、「被曝労働では自然放射線1年分の被曝を1日でする」くらいになる。改修工事で「述べ人員600人」という場合は、20ミリシーベルト×600=12000ミリシーベルト=12シーベルトの総被曝線量を伴う作業ということになる。「工事計画・作業要員(人数)は被曝線量が決定する。」『被曝労働者にも健康管理手帳を!』4頁参照。JCO臨界事故(1999年)のような緊急時には100ミリシーベルト(自然放射線100年分)が許される。これはもちろん「白血病の危険水域」に入るが、急性症状(脱毛など)は出ない。
●国は放射線作業(被曝労働)を「危険労働」とみなしていない
労働安全衛生法にもとづいて「健康管理手帳」が交付されるのは、2008年現在、癌やじん肺など遅発性(退職後に発症するリスクが大きい)の健康影響があるベンジジン、ベータナフチルアミン、ジアニシジン、粉じん作業、クロム酸および重クロム酸、三酸化砒素、コークス業務、ビス(クロロメチル)エーテル、ベリリウム、ベンゾトリクロリド、塩化ビニル、石綿(アスベスト)のみであり、放射線作業は入っていない。
http://www.kumamoto.plb.go.jp/search/anzen/tetyo.html
●JCO臨界事故の事後処理作業の被曝線量
大阪自治労の末田一秀氏は「労働者被曝でも真相は隠された?」と題して次のように指摘する。
臨界を止めるために沈殿槽の周りの冷却水を抜く作業が行われました。NHKが特集番組で報じましたが、原子力安全委員会のNo2である住田委員長代理がJCOに乗り込んで指揮を取りました。番組では被曝を心配して作業実施にすぐに同意できなかった工場側を脅す様にして迫った住田の言動が報じられていました。
放射線量が高いため3分間に限って2人1組で突入しては帰ってくる特攻作業です。最初の一組は現場の確認と写真撮影が任務でした。50ミリシーベルトでアラームが鳴る線量計を持っていきましたが、予想以上に放射線量は高く、被曝量も多くなってしまいました。そこで、第2組からは時間を更に短縮したと伝えられています。
問題は被曝量です。法令で定められている労働者の緊急時の被曝基準は50ミリシーベルト、人命救助等のやむを得ない場合で100 ミリシーベルトであり、人命救助等のやむを得ない場合に相当するとしてもアラームの設定値が高すぎます。その結果、最高で103 ミリシーベルトの被曝をしたと当初報道されました。ところが、8日付けの各紙の報道ではこの値が98ミリシーベルトに変更されていました。都合よく基準以下になるなんてと思っていたら、こんな話を聞きました。
原子力安全委員会は事故調査委員会を設け、8日に初会合を開きましたが、席上、住田委員が「労働者被曝の値で特別に高い値は誤りだからと現場で指示したのに、修正されずに同じ値が報告されてくるのは何事か」という趣旨の発言をしたそうです。法令違反になる高レベルの被曝をすることを承知しながら作業を命じた本人が、証拠隠しを白状してしまったと考えるのが自然ではないでしょうか。
結局、第2回の事故調査委員会に写真撮影にあたった労働者の被曝量が、103や98ではなく、120 ミリシーベルトもあったことが報告されました。
出典 http://homepage3.nifty.com/ksueda/JCOjiko.html 以上引用
註 住田健二氏は大阪大学名誉教授。日本原子力学会会長などを歴任。なおJCO事故ではJCOと親会社住友以上に国の責任が大きい。工場は「低濃縮ウラン」で臨界管理ができるように設計されていた。国が高速増殖炉(FBR)のために「中濃縮ウラン」の作業を強要し、さらに均一化作業をおしつけなければ事故はなかった。マスコミは「バケツがけしからん」などJCO叩きばかりで、国の責任を追及しなかった。欧米諸国は、危険、不必要、高価であるとしてFBRから撤退している。日本政府がFBRにしがみつくのは、兵器級プルトニウムが欲しいからではないだろうか。岸信介内閣は1957年に「自衛のための核兵器保有は合憲」と決め、自問党は現在もそれを継承している(政策的に核兵器を持たないことにしている)。
●原発被曝労働と格差社会
総被曝線量でも、被曝労働者数でも、「社員外」は「社員」より圧倒的に多い(『原子力市民年鑑2007』223頁のグラフ)。「被曝労働者30万人」の大半は「社員外」(下請け、孫請け)である。山谷(東京)、釜ヶ崎(大阪)などの日雇い労働者が下請けになることが多い。出稼ぎ農民も多い。社会的弱者。「マスクなし、訓練なし」は1970年代のことであるが、原発の数が増えたし、原発の老朽化に伴って作業(点検・修理)が増えたので、「被曝が減った」とは言えない。東京電力は自社の地域に原発をつくらないことにしている。東京電力は東北電力の地域(福島、新潟、青森)に原発をつくる。地方差別であろう。
●被曝線量(単位ミリシーベルト)
JCO臨界事故の死亡者 8000-10000くらい
ヒトの半数致死線量 3000-4000くらい(推定)
広島・長崎の被爆者 1-2000くらいか
急性症状 250以上
白血病労災認定 累積50-100くらい 5/年以上で累積30以上
イラクの劣化ウラン汚染 30/年くらいか?(「東京の30倍」などの測定値あり)
労働者の許容線量 100/5年 かつ 50/年 緊急時は100(これでも白血病リスクの危険水域になる)
公衆の許容線量 1/年 経済産業大臣が認めたときは5/年
自然放射線 1-2
胸部レントゲン撮影 0.1-0.2くらい
『原子力市民年鑑2007』227頁などによる
●日本の原発の被曝は多いのか?
国別の2004年1炉あたり従事者被曝線量では、沸騰水型(BWR)でみると、日本はメキシコに次いで被曝が多い。加圧水型(PWR)では日本の被曝は最多である(『原子力市民年鑑2007』225頁のグラフ)。日本の被曝は欧米より多い(ロシア・東欧より多い)。中国より多いのは、日本の原発は老朽化しているので作業(点検・修理)が多いからだろう。本当に日本は「フランスと並ぶ原発先進国」なのだろうか? なお世界の主流がPWRであるのに対して、日本はBWRとPWRが半々である。被曝はもちろんBWRのほうが多い。米国は1978年以来新規建設がないので、三菱と日立・東芝が米国の新規原発を受注した。チェルノブイリ原発事故(1986年)がもたらした「原発冬の時代」は地球温暖化問題で「原発ルネサンスの時代」に転じたと、日仏などの業界は沸いている。米ウエスチングハウス買収により日立は世界初の「BWR・PWR両刀遣い」になった。
BWR(日立・東芝) 東京電力、中国電力、中部電力、東北電力、北陸電力
PWR(三菱) 関西電力、四国電力、九州電力、北海道電力
●関西電力美浜原発3号事故(PWRの二次系配管破断による大量の熱湯噴出なので、放射線被曝事故ではない)
2004年8月9日(国立大学独立行政法人化の年の「長崎原爆の日」)に発生。
関西電力(ユーザー)――三菱重工(メーカー)
↓ ↓
関電興業(下請け) 日本アーム(下請け)
↓
木内計測(孫請け)5人死亡、6人重火傷(配管破断事故)
「木内計測 日本アーム」でGoogle検索するとよい。コスト節約のため運転中から定期点検の準備作業を行うようになったので、このとき人がたくさんいた。それで悲劇が起こった。点検の手抜きで配管のその部分が薄くなっていることに気づかず、破断が起こった。
●原発と海洋温暖化
温排水は海水温度を7度上げる。新潟では、「7度高いもうひとつの信濃川」が新たにできる水量である。
●原発と地球温暖化
原発は核分裂を行う。核分裂で炭酸ガスが出るとは誰も言っていない。問題は原発ではなく、ウラン鉱山から核廃棄物処分までのシステム全体である。米国のウラン濃縮工場は大型石炭火力発電所2基によって電力を供給されている。核廃棄物を数万年管理するにもエネルギーは必要だろう。
●原発と揚水発電
表 日本の発電所の設備容量と稼働率(1997年)
|
設備容量 |
稼働率 |
一般水力 |
1983万kw(9.2%) |
46% |
揚水水力 |
2318万kw(10.8%) |
7% |
火力 |
1億2700万kw(59%) |
43% |
原子力 |
4492万kw(20.9%) |
81% |
合計 |
2億1493万kw(100%) |
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出典 藤田祐幸(2007年11月20日、長崎大学工学部でゲスト講義)
水力の内訳(一般と揚水)はその後公表しなくなったので、この数字が一番新しい。揚水発電は下ダムから上ダムに電気で揚水し、上ダムから水を落として発電する。消費電力が発電電力より多いので「捨て電所」と呼ばれる(田中、2000)。揚水発電そのものは19世紀からあるが、原発の補完施設としての大型揚水は最近増えた。大型発電ダムの上位は揚水が占める。原発は出力調整時のリスクが大きいのでなるべく定格出力で運転し、需要変動への対応は水力、火力で行う。そのため原発の稼働率が高い。余った電気の捨てる量を少なくするために揚水を用いる。火力はコジェネ(熱電併給)ができるが、原発温排水の有効利用(ウナギの加温養殖など)はしないことになった。
これは「原発は稼働率が高くて優秀だ」ということではない。出力調整のリスクが大きいので仕方なく稼働率を高くしているのである。
●原発平常運転時の放射能の放出管理基準
経済産業省による用語説明を引用する。「再処理は原発の1年分を1日で出す」とはこの放出管理基準のことである。前掲高木仁三郎1991などを参照。
放出管理基準
原子炉施設などの周辺における公衆の安全を守るため、施設から環境へ排出される放射性物質の量と濃度の制限を決めた基準。気体及び液体廃棄物中の放射性物質を放出箇所(放出端)において厳重に制限・監視し、排出する。排出される放射性物質の量の目標値は、気体と液体について定めている。一方、濃度については、「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則の規定に基づく線量限度等を定める件」で制限されている。
出典 http://www.nisa.meti.go.jp/bousai/yougoshu/contents/0944.htm
●朝日新聞と読売新聞における原発問題(水俣病「昭和52年判断条件」についての両紙の違いと比較せよ)
1.新潟県巻町の原発住民投票(1996年8月)
「(社説)巻町の住民投票が示した重み」『朝日新聞』1996年8月5日
「(社説)巻町住民投票「原発ノー」の問題点」『読売新聞』1996年8月5日
それぞれの社説のしめくくりの文章を引用する。
「原発計画のある自治体を含め、国内では住民投票に消極的な首長や議会がほとんどだ。近年、投票条例の制定を求める住民の直接請求の動きは活発になっている。巻町が注目されたのは、原発というテーマの重大さと同時に、住民投票という手法に対する期待感の大きさゆえだろう。わたしたちも、住民投票が広まるきっかけになればと思う。もちろん、住民投票をいつ、どんな場合に実施するのがふさわしいかは、それぞれの自治体の住民が決めることである。今回の投票結果が他の原発立地にどれだけ影響を与えるかも、即断はできない。しかし、巻町の挑戦が、十分な機能を果たしていないこの国の間接民主主義に、大きな反省を迫ったことは間違いない」(朝日新聞)
「だが、原発建設の可否という国の基本政策を、住民投票の対象にすること自体に問題がある。憲法九四条を受けた地方自治法で、条例の内容は「その区域内における、国の事務に属しないもの」と限定している。税金にかかわる問題が住民投票になじまないのは、この限定があるからだ。原発建設は国のエネルギー政策にかかわる問題である。ある特定の地域の住民投票によって左右されるようなことがあれば、国の政策は立ちいかなくなる。国も原子力政策を進めるには、「安全」を最優先すべきことは言うまでもない。この原点を忘れず、安全性について住民の理解を得る最善の努力を尽くすべきだ。」(読売新聞)
2.プルサーマル住民投票(2001年5月)に対する新聞社説(朝日・毎日vs読売)
「(社説)「反対多数」の重み 刈羽村投票」『朝日新聞』2001年5月28日
「(社説)刈羽住民投票 それでもプルサーマルは必要だ」『読売新聞』2001年5月28日
3.もんじゅ裁判控訴審判決(2003年1月)に対する新聞社説(朝日・毎日vs読売)
「(社説)廃炉含め、見直しを もんじゅ判決」『朝日新聞』2003年1月28日
「(社説)もんじゅ訴訟 疑問多い「設置許可無効」の判決」『読売新聞』2003年1月28日
原発の争点3つを並べた。もちろん「朝日は反原発・読売は原発推進」ではない。「朝日は国策の是非を吟味しつつ慎重な原発推進・読売は政府全面支持の原発積極推進」である。相対的に朝日のほうが民意を重視する。1950年代からの原発導入に読売が大きな役割を果たしたことは周知の事実である(有馬,2008)。なお、ウィキペディアの「読売新聞」項目によると、同紙は「親米保守」であり、ギネスブックによる世界最大発行部数(1000万部超)である(かつての最大部数はソ連共産党の「プラウダ」)。
また原爆医療法(1957年)に際して、被爆者の広島・長崎被爆者への限定(法案段階で入っていた1954年ビキニ水爆実験被災漁民の切り捨て)と米国からの原発導入が取引として連動(「ビキニ被爆者を人柱に原発導入」)していたこともよく知られている(大石,2003:85)。
有馬哲夫,2008,『原発・正力・CIA 機密文書で読む昭和裏面史』新潮新書。
大石又七,2003,『ビキニ事件の真実 いのちの岐路で』みすず書房。
●最近の新聞記事
『朝日新聞』 2000年11月7日 朝刊 3社会 037面 03601文字
放射線被ばく 40万人、半数は医療現場(検証)
医療などの分野で放射線被ばく者は年間四十万人余り。防護の規則は来春改正されるが、実態は見えにくいままだ。(中山由美)
○データ管理、各病院任せ
青森県弘前市の国立弘前病院のX線撮影室。ベッドの横に立った医師は患者の胸の動脈に細い管、カテーテルを挿し込む。モニターにはX線で透視した血管が網目のように映し出されている。医師は管の先に神経を集中し、薬を注入する。
IVRと呼ばれるこの治療は患者にX線を照射しながら行う。レントゲン撮影と違って別室で操作できるものではないので、医師も被ばくする。
短時間であれば、人体への影響は少ないが、治療は三、四時間に及ぶこともある。X線を防ぐ重さ約三キロの鉛エプロンと鉛ガラスの入ったゴーグルをつけてはいるが、頭や手はむき出しのままだ。
担当医師(四五)の被ばく線量は三月までの一年間で五三・九ミリシーベルト。原子力施設の放射線業務従事者の平均に比べ、四十倍以上だ。労働安全衛生法の「電離放射線障害防止規則」(電離則)は、労働者が一年間に被ばくする限度を「五〇ミリシーベルトまで」と定めている。限度を超えれば、白血病や皮膚がん、甲状せんがんなどにかかる恐れがある。病院側も、被ばくの危険は重々承知している。
それでも、胸や腹を切り開く手術より体の負担が少ないので、IVRを希望する患者は増えている。治療時間を短くするか、担当医を増やすしか、被ばくを減らす手だてはない。
担当医の被ばくを減らすため、十月から血管撮影に加わった医長(四三)は「患者のことを第一に考えると、医者にとって自分の被ばくはつい二の次になってしまうんです」と話す。
放射線治療の普及に伴い、医療従事者の被ばくは増えている。測定会社によると、年間二十万人余りになり、全体で四十万人余りと推定される放射線被ばく者の約半数を占める。だが、医師や放射線技師の被ばく管理は各病院任せというのが実態だ。ずさんなケースもある。
東京都内の測定会社はある開業医と契約し、線量測定をしていた。数カ月後、医師は「線量計をつけていてもいつもゼロ。もったいないからやめる」と断ってきた。「測定が法的に義務づけられていることさえ知らない医師もいる」と社員は言い、「すべての医療機関に管理を徹底させるのは難しい」と話す。
放射線を扱う研究者や、物を壊さずにX線で内部を透視して検査する非破壊検査工にも深刻な被ばく事例は見られる。十年前、国立天文台の研究者(当時四六)が白血病で亡くなった。衛星に搭載するX線観測装置を開発していた。四年間の推定被ばくは、九七四ミリシーベルトだった。
だが、放射線にかかわる規制法令は機器の扱いから放射性物質の管理に至るまで種類が多く、所管も科学技術庁や労働省、厚生省、文部省などばらばらだ。「被ばくデータを一括してまとめる機関もなく全体状況はつかめない」(科技庁放射線安全課)という。
原子力関連事業だけは、科技庁の外郭団体、放射線影響協会放射線従事者中央登録センターがデータの一括管理をしている。労働者は、放射線の被ばく量などを記録した放射線管理手帳を持ち、各事業者がセンターに報告する。
昨年度の被ばく者は約六万五千人。約九割が下請け会社の作業員だった。
来年四月、電離則が改正される。被ばく限度の見直しは十二年ぶり。国際放射線防護委員会(ICRP)が十年前に規制をもっと厳しくするよう勧告し、日本政府も勧告を受けて放射線審議会が検討を重ねて、ようやくまとまったものだ。
今回の改正の中身は「年間五〇ミリシーベルトまで」の被ばく限度に「五年間につき一〇〇ミリシーベルトまで」を加え、記録保存の義務を「五年間」から「三十年間」に延長する。
これを契機に、労働省は所管の民間企業や私立病院での被ばくデータの集約を検討し始めた。五年を過ぎた記録の保存を同協会に引き渡すようにして、将来は原子力産業と同様に、被ばくの全体状況がわかるようにしたいと考えている。
○障害の立証は困難 労災認定のケースまれ
被ばくと体の異常との因果関係を立証するのは難しい。被ばく管理が厳しいとされる原子力産業でも見方がわかれ、労災が認められる例は少ない。
大阪府松原市の阪南中央病院。広島や長崎の原爆被爆者を診てきた村田三郎医師のもとには、「原発で働いてから体がおかしいんです」と訴える患者が全国から訪れる。
十月十一日、国内初の原発被ばく裁判を起こした岩佐嘉寿幸さん(七七)が同病院で亡くなった。
岩佐さんは一九七一年五月、福井県の日本原子力発電敦賀発電所で作業中「被ばくして放射線皮膚炎になった」として、七四年に四千五百万円の損害賠償を求めて日本原電を提訴した。「被ばくによる障害だ」「被ばくとは無関係」と医師らの判断は二つに割れた。九一年、最高裁は上告を棄却。「被ばくした証拠はない」との判断だった。七五年に申請した労災も九四年六月に棄却された。
福岡市の川口義啓さん(五三)は肺や肝臓、すい臓の障害で入退院を繰り返している。九四年秋、福井県の原発で配管の切断作業中、切断部から流れ出た水をかぶった。
「水をかぶってから高熱が続き、歯が抜け、髪の毛も薄くなった」と訴える川口さんに対して、一緒に作業した親会社の社員は「放射能で汚染された水ではない」といい、電力会社は「作業後に川口さんの体が汚染されていないことを確認した」と否定している。
岩佐さんや川口さんの被ばくは記録上、数-一〇ミリシーベルト。「低い数値が因果関係を立証できない最大の原因」と村田医師はみるが、「数ミリシーベルトでも異常をきたす引き金にはなり得る」とも指摘する。
被ばくにかかわる現在の労災認定基準ができたのは七六年十一月。原子力発電所の労働者でこれまでに認定されたのはわずか五人で、いずれも白血病だ。
また、民間の医療関係者や研究者らも労災認定されるケースは少ない。白血病や白内障は労災の認定基準に被ばく線量が示されているが、肺がんや甲状せんがんなどは明確な基準がないためだ。
労働省補償課の担当者は「がんの発生要因は様々だ。放射線が人体に与える影響もわからないことが多い」という。
<放射線被ばく者>
放射線業務従事者の線量測定は、東京都内の測定会社「長瀬ランダウア」と「千代田テクノル」が九割以上を担う。二社によると、昨年度、放射線を使う場所で働き、被ばくした恐れがあるのは四十二、三万人程度とみられる。このうち医療関係者は二十万人余り、研究教育機関は七万五千人前後、工業で約七万人と推定。原子力産業は六万五千人だった。ここ五年ほどでみると、医療関係者は毎年数千人ずつ増えているという。
◆国内での主な被ばく事故や労災認定
1989年・レントゲン技師に労災認定(白血病)
90年・国立天文台のX線発生装置の研究者が白血病で死亡。4年間で推定974mSvを被ばく。公務災害認定
・レントゲン技師に労災認定(手・指の皮膚がん)
91年・福島県の原発労働者に労災認定(慢性骨髄性白血病で死亡)
92年・長崎大工学部でX線解析装置が故障。研究技官が指に被ばくし放射線熱傷。推定1~3Sv。公務災害認定
・都立アイソトープ総合研究所で放射線照射装置の点検中の事故で4人被ばく。最大は16mSv
・レントゲン技師に労災認定(皮膚がん・肺がん)
93年・医師に労災認定(手・指の皮膚がん)
94年・レントゲン技師に労災認定(白血病)
・非破壊検査工に労災認定(手・指に皮膚障害)
・兵庫県の原発労働者に労災認定(急性骨髄性白血病)
・静岡県の原発労働者に労災認定(慢性骨髄性白血病で死亡)
95年・医師に労災認定(手・指の皮膚がん)
・非破壊検査工に労災認定(白内障)
98年・琉球大医学部付属病院で放射線技師ら2人が治療装置交換中に被ばく。指先の皮膚に推定約100Sv。
・長崎県の非破壊検査工場で作業者が手に被ばく。推定数十Svで放射線熱傷の症状。労災認定(手・指に皮膚障害)
99年・茨城県の原発労働者に労災認定(急性リンパ性白血病)
・JCO臨界事故で労働者3人が被ばく、労災認定(急性放射線症)。1人は12月、もう1人は2000年4月に死亡
2000年・福島県の原発労働者に労災認定(急性骨髄性白血病で死亡)
(Svはシーベルト、mSvはミリシーベルト。1Svは1000mSv)
【写真説明】
X線で患者(中央)の体を透視し、モニター画面に映し出された血管を見ながらカテーテルを挿し込む。X線発生装置のすぐそばで治療するため、医師も被ばくする=東京都中央区の国立がんセンターで
●班目春樹東大教授の発言
原発については、推進派の班目(まだらめ)春樹・東京大学大学院教授(原子力工学)も次のように述べている。「原子力発電に対して、安心する日なんかきませんよ。せめて信頼してほしいと思いますけど。安心なんかできるはずないじゃないですか。あんな不気味なの。」「最終処分場の話は、最後は結局お金でしょう? あの、どうしてもみんなが受け入れてくれないとなったらお宅にはいままでこれこれと言っていたけどその二倍払いましょう、それでも手を挙げてくれないんだったら五倍払いましょう、十倍払いましょう、どっかで国民が納得する答えが出てきますよ。」(映画『六ヶ所村ラプソディ』鎌仲ひとみ監督、2007年)
なお、最終処分場の有力候補地のひとつは長崎県対馬である。「対馬ではイタイイタイ病はなかった」とされたことも想起される。
●原発定期点検で少年に違法作業をさせる――東京電力・東北電力の元請け(東芝)の下請け企業(NHKニュース)
各地のニュース NHKオンライン 2008年 06月04日
原発定期検査 少年が違法作業
http://www.nhk.or.jp/news/t10015019911000.html
6月4日 6時20分
福島、宮城、青森の3つの原子力発電所の定期検査の際に、東芝の下請け会社で働く15歳から17歳の少年6人が、18歳未満による作業が禁じられている区域で違法に作業をしていたことがわかり、労働基準監督署が下請け会社の雇用の実態を調べています。
違法な作業が行われていたのは、東京電力の福島第一原発と、いずれも東北電力の宮城県にある女川原発、それに青森県にある東通原発の3か所です。東芝などによりますと、去年8月からことし5月にかけて、これらの原発の定期検査が行われた際、作業を請け負った東芝の下請け会社で働く15歳から17歳の少年6人が放射線の管理区域に入り、資材を運んだりする作業をしたということです。労働基準法では、18歳未満の作業員が原発の放射線管理区域で働くことは禁じられ、作業にあたる人は「放射線管理手帳」と呼ばれる証明書が必要です。しかし今回は、下請け会社とつながりのある人物が少年らを18歳以上に見せかけるためにうその住民票を使って不正に手帳を取得していたということです。労働基準監督署は、詳しい雇用の実態や手帳を取得した経緯を調べています。これについて元請けの東芝は「このようなことが起きてたいへん残念だ。下請け会社への指導を徹底し再発防止に努めたい」と話しています。
午後7時00分~午後7時30分 NHKニュース7
6時20分 原発定期検査 少年が違法作業
●受講生の感想抜粋
「これほどの事実が隠され続けていたことに驚かされた。自分自身、原発は「事故さえ起きなければ安全で便利」と思っていた。たぶん、小中学校などではそういうふうに教えられたと思う。たとえ戦争がなくても、これでは日本は平和とはいえないと思う」男子
「現在日本にあるプルトニウムを原爆に換算すると3750発というのに驚いた。そして1000年先のことを何でそんなに自信たっぷりに言えるのか不思議でしょうがない。それなのにあとにならないし、もし何かあったらということを考えると、付近の人たちは心配でたまらないと思うので、反対するのは当然だと思う」女子
「原発の中で被曝の可能性を認めたにもかかわらず、下請け労働者の健康など配慮することなく、働くだけ働かせて、後はお金で黙らせるなんて、ひどいと思いました。それに、その状況がきちんと改善されることなく、労働者も増やして、ビデオの中で言っていたように、本当にただの道具のような扱いをされて、あってはいけないことだと思います。もうひとつの現在の原発[再処理工場]のビデオを見て、原発をやめさせるのであれば、自分たちも覚悟がいるということを[月尾博士が]言っていたのを聞いて、あんなに無茶な条件でも原発が続いているのは、私たち一人一人にも原因があると思いました。全国の人々が節電を心がけることで、原発の必要性は少しでも減るんじゃないかと思います。特に都会ではもっと節約に努めるべきだと思います。いつも被害にあうのは地方の人々なのが辛い事実だと思いました」女子
「日雇いの労働者が日常的に被曝者となっていることに驚いた。巨大な原子力産業であるがゆえにこの実態が報道されないこと、唯一の被爆国であるはずの日本で欧米諸国に比べ被曝者が多いことに憤りを感じる」男子
「一昔前の映画でヤクザがよく「原発に行くか、内蔵を売るか?」というセリフを言っているのを耳にしましたが、今でもそのような現状が続いているのだと知って愕然としました。強制収容所のような労働者の映像は、原発の恩恵を受けてきた私にはとても衝撃的で、現代の矛盾を痛感させられました。再処理工場などでますます被曝労働者が増えると思うと、やりきれなくなります。」女子
「今も部落の人が差別されているという事実に驚いた。長崎には部落が少ないので、なじみが薄く、そんな昔の差別はもうないのだと思っていた。誰かの命を犠牲にしてまで現在の原発を続けてよいのか。また日雇いの人が集まるところ[釜ヶ崎]は、日本だとは思えなかった。世の中にはまだまだ知らないことがある」女子
「原発に代わる新しい電力供給施設が必要であると思う。原発を使用するにしても、もっと技術を上げ、安全性を高めていく必要がある。原発で働きたくないと思った」男子
「事故がおきなくても原発で被曝している人がいることに、さらにとても多くの人がそうなっていることを初めて知りました。そしてここでも下請けの人々にしわ寄せがいっているのが悲しい」男子
「普段使っている電気の裏にこんなにも多くの被害者がいたということを知らなかった」女子
「原発の事故があったことは知っていたが、ビデオで見たような裏側の世界があることを初めて知った。日本は見せかけのことが多いように思える。原発は大きな事故を起こしてしまうのに、青森の会社[再処理の日本原燃]は無責任なように思える。実験しているように見える。何か起こってからでは遅いのだから、確実なものを得てから取り組んでほしかった」女子
「原発被曝労働なんて言葉を初めて聞きました。今日のビデオを見ながらショックを受けました。原発による被曝があっているなんて知りませんでした。原発からの放射能漏れなどによる被曝は聞いたことがありましたが、原発で働いているたくさんの労働者が被曝しているとは思いませんでした。皆、放射線をあびているのは分かっているけれど、恐ろしくて本当のことを両親にも言えず仕事に行っていたという話はとても辛かったです。両親もまさかそんな状況で働かされているとは知らず、息子を仕事へ向かわせていたのを悔やんでいる姿は見ていてとても悲しくなりました。原発で働いている人たちには民主主義は通じないという[中島住職の]言葉を聞いて驚きました」女子
「原発を動かすために29万人の人たちが被曝しながら働いている。そしてそれをマスコミも報道しないという人間を軽くみている態度、これらのことにとても怒りを感じた。原爆被爆国日本が原発被曝労働をさせていいのかと思った。[再処理で]放射性物質を貯蔵できないからといって外に出すのはだめだと思った。〝安全管理〟これができないと何事もやってはいけないのだと思う」男子
「今まで原発は地震や事故が起きない限り危険はないと思っていた。原発で働くことで被曝し、苦しんでいる人がたくさんいることを知らなかった。日本ではもうすでに格差ができあがってしまっていると思った」男子 浜岡原発は東海地震の特定観測地域にあるので原発震災のリスクが大きい
「原発というと皆が防護服に身を包んでいるイメージがあったので、事故があったとき以外はそこまで危険じゃないと思っていた。しかし実際には原発内部では熱すぎて防護服を脱がないとやっていけない状況もあり、多くの労働者が被曝したことにとても驚いた。このような事情があまり表に出されないので、今回のビデオで初めて知ったときは驚きとともに自分も〝安全だ〟とだまされたような気がして怒りもこみあげてきた」女子
「原発は便利である一方で、安全面で不完全だ。私はきちんと[廃棄物の]埋める所などが決まってから稼働するべきだと思う。しかし私たちも原発を止めてからのことをきちんと考える必要があると思う。ただ危ないから止めろとはいえない」女子
「私は以前原発の是非についてディベートをしたとき原発に賛成の立場をとった。環境にやさしいと思っていたし、廃棄物をきちんと処理すれば安全だと主張した。しかし原発で働く人々について考えたことはなかった。ボロ雑巾で放射能を拭き取る作業などが手作業で行われているとは知らなかった。また、日雇い労働者が原発に連れていかれると知って衝撃を受けた。資料を見て疑問に思ったのですが、放射能は拭き取ったり、洗い流すことできれいに除去できるものなのですか?」女子 完全な除去は難しい場合もあるでしょう。
「原発は危険だけど事故を起こさない限り放射能は出さないと思っていたが、いろいろと隠されていた危険や恐ろしさが見えた気がした。労働者はお金で口封じされ、原発の労働者たちは一日にあびる放射線が制限されているが、最下層の労働者ほど多くの被曝を強いられると知って、隠されてきた原発事情の恐ろしさを初めて知った。原爆を経験した国なのに自国で被曝者を作り出しているということが悲しいと思った」女子
「中学生のときに玄界灘の原発[玄海原発]を見学に行ったことがあるのですが、そのときは整えられた見学施設とコントロールルームしか見ませんでした。いかに原発が安全であるかということを聞きましたが、実際のところは「もんじゅ」のような事故が起こったし、処理したものの管理がいいかげんだったりと今後に課題を残してばかりのものだということを知りました」女子
「今回のビデオは今までで一番ショッキングだった。放射能汚染を受ける労働者が日々当たり前に増えていることに驚いた。再処理施設は青森県だったが、放射性物質をまき散らせば雪にも混じって落ちてくることもありうると思う。原発の関係者[日本原燃]は推測的なことばかり言っていて正確性に欠けているように思えた。未来のことばかり言っても信じられない。つい先日、カネミ油症の認定患者の訴訟(?)のニュースを見た。本当に闘いは続いているのだと強く実感した」女子
★カネミ新訴訟
カネミ患者、23日に提訴へ 80年代末の訴訟終結後初
2008年5月11日 共同通信配信NEWS
西日本一帯で1968年に発生した大規模な食中毒のカネミ油症で、80年代末の訴訟終結後に認定された患者らと弁護団が11日、長崎県五島市で会合を開き、原因となった米ぬか油を製造したカネミ倉庫(北九州市)側に、1人当たり1100万円の損害賠償を求め、福岡地裁小倉支部に今月23日、新たに提訴することを決めた。
弁護団によると、福岡、長崎などの患者約30人が原告に加わる見通し。原因物質の一つで、米ぬか油に混入したポリ塩化ビフェニール(PCB)を製造した旧鐘淵化学工業(現カネカ)と国については、裁判の長期化を避けるため、訴訟の対象から外した。
この日の会合には、五島市の患者や代理人の家族ら12人が出席し、原告団を結成。療養中の永尾丈一さん(75)の代理として出席した妻喜美子さん(74)は「カネカと国を訴えられないのは悔しいが、高齢の患者には時間がない。生きているうちに救済してほしい」と訴えた。
※写真=新たな提訴について、カネミ油症患者らに説明する弁護団=11日、長崎県五島市
http://mediajam.info/topic/480405
「今日のドキュメンタリーはほんとにびっくりした。日本は原発が多めである[世界に約430基、米国に100基あまり、日本に55基]ことは高校のときに学んでいたが、被曝者がこんなにもいることが衝撃だった。原発で働いていた[下請けの]人たちへの待遇がこんなにもひどいとは知りもしなかったし、もっと安全なものだとばかり思っていた。原発は安全だろうと考えていたが、今日の授業を受けてもう作らないほうがいいと思った」女子
●追加資料 グリーンピース報告紹介
グリーンピース・ジャパン著『原子力は地球温暖化の抑止にならない』
「地球温暖化対策のために原発増設を」という常軌を逸した日本政府の主張に一部の欧米諸国まで同調しているようだ。それに反論する小冊子で、原子力資料情報室などが協力。非常に説得力がある。章立ては「温暖化対策は時間との競争」「原子力は温暖化抑止に貢献しない」「原子力の拡大はさまざまなリスクを増大させる」。PDFファイル(32頁)で下記から全文ダウンロードできる。
http://www.greenpeace.or.jp/campaign/enerevo/news/files/booklet.pdf
(グリーンピース・ジャパン、2008年、オンライン)
グリーンピース・ジャパン著『エネルギー[r]eボリューション 持続可能な世界エネルギーアウトルック』および『エネルギー[r]eボリューション 日本の持続可能なエネルギーアウトルック要約版』
グリーンピース・インターナショナルと欧州再生可能エネルギー評議会(EREC)が共同で作成した報告書の日本語版。IPCC(気候変動政府間パネル)のパチャウリ議長が推薦文を寄せている。報告書(PDFファイルで100頁)と日本の持続可能なエネルギーアウトルック要約版(PDFファイル)がいずれもダウンロードできる。報告書は次の申し込み頁に氏名、メールアドレスなどを記入して、送信後ダウンロードページに進む。カラー図表入りで100頁あるので印刷には30分以上かかる。
https://www.greenpeace.or.jp/ssl/enerevo/enerevo_application_html
要約版は下記からダウンロードできる。日本のエネルギーが2050年までに「脱原発」することを想定している。
http://www.greenpeace.or.jp/campaign/enerevo/documents/enerevo_japan_outlook
報告書の説明を次に引用する。「『エネルギー [r]e ボリューション』では、現存する自然エネルギー技術の利用と、さらなる技術革新を考慮し、またエネルギー効率を向上させることにより、2050年までに世界の温室効果ガス(主にCO2)の排出量を半減しつつ、エネルギーの安定供給と世界経済の着実な発展が可能であるとし、原子力発電の段階的廃止と化石燃料消費の大幅削減も実現できることを示しています。CO2を回収して地中や海洋に捨てる、いわゆる炭素回収・貯留も不要。自然エネルギーのみで世界の一次エネルギー需要の半分を満たすことができることを提示しています。『エネルギー[r]eボルーション』はまた、危険な気候変動の回避と、公正で公平なエネルギーシステムの構築をめざすグリーンピース「気候・エネルギー」キャンペーンの指針です。[r]eボルーションとは、英語のrevolution (「革命」)とevolution (「進化」)の二つの意味を兼ね合わせたもの。 [r]は電気工学において電気「抵抗」(R:resistance)を表しますが、ここでは環境負荷を増大させるエネルギー政策に対する「抵抗」を意味しています。」
(グリーンピース・ジャパン、2008年、オンライン)