長崎外国語大学・社会学Ⅱ

2008年1月10日 1月22日改訂

 

『テロリストは誰? 第三世界に対する戦争 僕がアメリカの外交政策について学んだこと』グローバルピースキャンペーン(きくちゆみ)、2004年、120

フランク・ドリル編、What I have Learned about U.S. Foreign PolicyThe War against the Third WorldFrank Dorrel

1.マーティン・ルーサー・キングJr.牧師(2分45秒)

2.元CIA高官ジョン・ストックウェル(6分18秒)

3.影の政府:憲法の危機(2141秒)CIA

4.隠ぺい工作 イラン・コントラ事件の裏で(2046秒)

5.スクール・オブ・アメリカズ 暗殺者学校(1331秒)SOA/WHINSEC

6.経済制裁による大量虐殺(1240秒)イラク経済制裁、オルブライト発言

7.東チモールの大虐殺(5分13秒)

8.嘘まみれのパナマ戦争(2205秒)

9.ラムゼー・クラーク 元米国司法長官(7分46秒)

10.     ブライアン・ウィルソンの癒し(8分37秒)

映像解説パンフレット『テロリストは誰? ガイドブック』グローバルピースキャンペーン編(合同出版発売、2004年)完全シナリオ収録。112頁。

グローバルピースキャンペーンhttp://globalpeace.jp/

キーワード:CIAの秘密工作、イラン・コントラ事件、パナマ侵攻、スクール・オブ・アメリカズ(暗殺者学校)、経済制裁、東チモール、ラムゼー・クラークと民衆法廷

 

上記所収の「隠ぺい工作 イラン・コントラ事件の裏で」(21分)「スクール・オブ・ジ・アメリカズ」(13分)を映写(2008年1月9日)

 

SOA Watch(米軍アメリカ学校監視)http://www.soaw.org/

 

『アメリカの国家犯罪全書』ウィリアム・ブルム、益岡賢訳(作品社、2003年)米国の国家犯罪の全体像がわかる。著者は元国務省職員。

『エコノミック・ヒットマン 途上国を食い物にするアメリカ』ジョン・パーキンス、古草秀子訳(東洋経済新報社、2007年)米国のパナマ侵攻などの背景がわかる必読書。

John Perkins  http://www.johnperkins.org/

『CIA暗殺計画』米上院特別委員会報告、毎日新聞社外信部訳(毎日新聞社、1976年)

『陰謀国家アメリカの石油戦争』スティーブン・ペレティエ、荒井雅子訳、ビジネス社、2006年)著者は元CIAイラク担当分析官、政治学博士(カリフォルニア大学バークレー校)。

『CIAの心理戦争』N・ヤコヴレフ、井戸口博訳(新読書社、1983年)ソ連の歴史学者の著書。

『ベクテルの秘密ファイル CIA・原子力・ホワイトハウス』レートン・マッカートニー、広瀬隆訳(ダイヤモンド社、1988年)

『冷戦後の米軍事戦略 新たな敵を求めて』マイケル・クレア、南雲和夫・中村雄二訳(かや書房、1998年)

『血と油 アメリカの石油獲得戦争』マイケル・クレア、柴田裕之訳(NHK出版、2004年)

『反米大陸 中南米がアメリカにつきつけるNO!』伊藤千尋(集英社新書、2007年)★

「安倍政権投げ出しの原点 岸信介をアメリカのエージェントだった」『週刊文春』200710月4日号

Legacy of AshesThe History of CIATim WeinerNew YorkDoubleday2007700頁の大著。岸信介などとの関係も詳述。

DrugsOil and WarThe United States in AfghanistanColumbia and IndochinaPeter Dale ScottRowman & Littlefield2003)スコット教授は映像にも出てくるが、元カナダ外交官。米国の国家犯罪に詳しい。詩人。

 

○米国のSOA問題

SOAは当初パナマに設置されていたが、オマール・トリホス将軍(元高級将校だが独裁者ではなく良心的な政治家で、1981年7月に不審な事故死をし、ラテンアメリカ諸国では、2か月前のエクアドル、ハイメ・ロルドス大統領の事故死とともに、「CIAによる事故偽装暗殺」だと推定されている)が、虐殺や拷問を教える学校の存在は不愉快だとして、カーター大統領に施設の国外退去を求め、米国内に移転された(パーキンス『エコノミック・ヒットマン』参照)。SOAが連邦議会でもとりあげられ、School of the Americas(SOA:米軍米州学校あるいは米軍アメリカ学校)は評判が悪くなったのでWestern Hemisphere Institute for Security Cooperation (WHINSEC:米軍西半球安全保障協力研究所)名称を変更した。SOAという名称はなくなったが施設はそのままであり、WHINSECの活動内容にも非公開部分などがあるので、まだ安心はできない。NGOは旧称と現在の名称を併記して、SOA/WHINSECなどと表記している。

 

○米国の二重基準

イスラエル政府によるパレスチナ人虐待(1948年-現在)を容認

1975年のインドネシア(スハルト政権)による東チモール侵攻(死者多数)を容認

1990年のイラク(フセイン政権)によるクウェート侵攻(死者僅少)に過剰制裁

東チモールは資源乏しい、クウェートは石油大国

スハルトもフセインもノリエガ(パナマ)も長年米国政府の協力者

フセインとノリエガは米国政府に距離を置くようになった。

 

受講生の感想

「スクール・オブ・ジ・アメリカズは本当に怖い学校だと思いました」(男子)

「人が殺され、死体をシーンとみている。非常に心が痛んだ。また、ビデオの中では「村に行き、数人の村人を殺害し、恐怖心を植え付ける」というセリフがあったけど、非人道的行為としか思えなかった。良いことも悪いことも米は関与しており、米という国、米政府とはどういうものなのかがわからなくなった。」(女子)

「スクール・オブ・ジ・アメリカズの卒業生がエルサルバドルのエルマソテ村という小さな村で900人以上の何の罪もない人々を射殺したという事件はとても残虐な行為だと思いました」(女子)

「アメリカという国がますますわからなくなりました。嘘と偽りでいっぱいのアメリカ内部は恐ろしいです。いつになっても問題はありますが、一刻も早く戦争や内戦のない平和な世界になって欲しいです」(男子)

「様々な虐殺の写真を見て、胸が痛くなった。あまりにひどすぎると思う。どうしてこうも簡単に大勢の人々を殺そうという気になるのかわからない。スクール・オブ・ジ・アメリカズは最低だと思う。このような様子では、平和はほど遠いと感じた」(男子)

「CIAによる憲法を無視した秘密工作や、地域社会を壊す方法を学ばせる軍事学校など、国民を裏切る組織の存在は許せません。ニカラグアでの殺害など、まるでゲームでも行っているかのように多くの人々を殺してしまうなんて、人間としての心を失っていると思います」(女子)

「スクール・オブ・ジ・アメリカズの卒業生は、現地の住民を恐怖によって抑圧していた。アメリカ国民にこの事実を知らせなければならない、と言っていましたが、アメリカ国民のあいだでこのような秘密工作やCIAの認知度は低いのでしょうか?」(女子)

戸田コメント 認知度は決して高くないと思う。ただ多くの国民が国家機関の闇の部分の存在は感じているだろう。

「アメリカはよく“平和”を主張していますが、いつも武力で解決しています。こんなことが許されてよいのでしょうか。イラク戦争、ベトナム戦争。これから先も戦争をしかけてくるのでしょうか。」(女子)

戸田コメント イランや北朝鮮への侵攻や空爆はたぶんない。2009年1月就任の大統領が誰にしても、しばらく新たな戦争は困難だろう。

「イラン武器売却での秘密公聴会は、政府が組織しているため、国民には広まりにくいと思った。またそのお金がニカラグアの武装勢力に流れていたこと(コントラ事件)を問題にしていたこともである。今から40年くらい前のベトナム戦争期(1960年代)のアメリカのCIAは授業で習ったように政府の一組織であるものの、自由に使える予算などから、秘密戦争や秘密作戦(またこの時期には大統領の暗殺もあったが)が多々行われ、この観点だけみると、CIAのやり方は今の北朝鮮のようだなあと思った。このように考えた時、国民の代表者を起用しているはずの政府は、その役割ではなく政府が国民に規則を上から与え、支配しているような感を覚える。日本を見た時、政府の上に天皇がいて、天皇君主制だったころの日本も別の意味で戦争の連続であった。何が国を組織する上で重要なのだろうか。さらに公的資金を秘密活動に注入することも、School of the Americas(米軍米州学校)が「地域社会を壊すことを主に重点として教えていることも同じ人間なのにどうかしていると思った」(女子)

「戦争を拒む人もいれば、武器商人のように戦争を望む人たちもいる。彼らは戦争を商売としか思えないのか?」(男子)

「権力乱用がここまで明らかになっているのになぜそれを阻止できないのだろうか。映像を見ていて、本当に日本に生れてよかったなと思いました。声ある私たちは声なき者たちの代弁をしなくてはならない」(男子)

「ビデオの中で、戦いの目標?は「一般市民を殺す」と言っていました。何の罪もない市民、子供もたくさん亡くなっていたので、かわいそうだと思いました。街頭インタビューでは「工作活動は続く」「誰が止めることができるの?」との意見があり、アメリカ国民はちゃんとアメリカの悪事を認識しているのだと感じました。けど、私も彼らと同様で、巨大なアメリカ連邦政府の悪事をあばくことは困難だと思うし、できる人はいないのではと思います」(女子)

「アメリカが起こしてきた数々の虚しい戦争は、敵国に独裁者がいて成立していると思う。アメリカは常に敵を探している」(男子)

戸田コメント 米国は独裁政権と戦争することもあるし、民主的に選出された政権を転覆することもある(1953イラン、1954グアテマラ、1973チリ)。

「アメリカは自国の外で戦争をしてきた。ほとんど第三世界国家で、ほかの国を助けるといって自国の利益をとる。第三世界国家の人々はアメリカの家畜と一緒。尊厳がない」(男子)

Banana Republicという言葉を以前から知っていて、意味がものすごく気になっていたが、こういう時代背景のある言葉なのかと納得した。アメリカの歴史は短いが、戦争ひとつをとっても、大変興味深い背景がある。日本の昔の政府よりも単純で、アメリカの戦史は、私は好きだ。秘密工作は最近になってメディアで報道されるようになり、私たちに一番身近なのが北朝鮮だと思うが、アメリカのやっていることは詳しくとりあげられた特集を目にする機会がなかったので、一部を理解できてよかったと思う。カンボジアや他の国でも虐殺が行われたが、死の恐怖は、というか周りの人が殺されていくという恐怖は、たまらないものだと思う」(女子)

「映像をいきなり観ただけでは何が起きていたのかよくわからなかった。わかったのは、多くの人々が虐げられ、虐殺されたこと。ショッキングな映像でしたが、この事件を知るいいきっかけになりました」(男子)

「改めてCIAというのはむちゃくちゃな組織だと思いました。また、今回のビデオで印象に残ったのは[ニカラグアの]ソモサの銅像が引っ張られ、倒される場面です。あの場面はフセインの銅像がアメリカ軍によって倒された場面とかぶるものがありました」(男子)

戸田コメント ソモサの銅像を倒したのは米軍ではなくニカラグアの人々。

「アメリカの横暴。自国の繁栄のために他国に戦争をしかけ、その国の経済基盤を破壊し、さらに市民を虐殺し恐怖を植え付けるやり方は、アメリカ政府の裏の顔を表しているように思える。まさに黒い歴史だ」(男子)

戸田コメント この映像のなかでは「市民を虐殺し恐怖を植え付け」たのは、米軍ではなく、親米独裁国家の軍隊。

「アメリカには様々な問題があるけど、今回のビデオで観たスクール・オブ・ジ・アメリカズの件については、悲惨でつらすぎる」(男子)

「私は改めてCIAの恐ろしさを知りました。彼らは軍事でしか物事を抑えることができないのだろうかと思います。またその影で動いていたスクール・オブ・ジ・アメリカズに対しても私は怒りを覚えます。映像に出ていた多くの死体を見て何も感じないのでしょうか。その前に彼らは何を思って入校しているのか知りたいです」(男子)

「アメリカ大統領の権力の絶大なこと、自らの私腹をこやすためだけに秘密学校・組織を作り世界のあちこちで無実の他国民を虐殺するということが許されていいはずがないと思った」(女子)

「アメリカは世界の“未亡人と孤児の弁護人”になりたくて、さまざまな国で戦争をしたみたいです。しかし、いつも“未亡人と孤児”を守れないと思います。一番弱い人の方がいなくなる」(女子)

「国民には知る権利があると思うので、国民はその権利が強化されるように努力しなければ、ずっと何も知らされないまま終わっていってしまうと思う」(男子)

「『エコノミック・ヒットマン』という本に少し興味をもった。国家の法律で取り締まることのできない組織がるという事実に少し驚いた」(女子)

戸田コメント 少し誤解があるかもしれない。「エコノミック・ヒットマン」は民間企業の社員なので、米国政府の意向で「おかしなこと」をしても、企業の不祥事として扱われ、政府の責任が問われない。CIA職員(国家公務員)の場合は、「悪事」がばれると政府の責任が問われる。

「CIAがコントラに対していろいろな指示書を送っていたり、CIAのスタッフが麻薬の取引に関わり手助けをするようなまねをしていたのは驚きであり、そんなことがあってよいのかと思った」(男子)

「武器、兵器の流出は戦争を引き起こす原因にもなり、大変危険だと思う。CIAは情報機関であるのだから、情報を得ることはあっても、内密に他国へ漏らすようなことをしてはいけない。将校たちによる大量虐殺などはもちろん、そういったモラルに欠けることが多すぎると思う」(男子)

戸田コメント 映像に出てくる将校は、米軍将校ではなく、親米独裁国家の将校。

「軍事援助はやっぱりしてほしくないことで、もっと多くの人が知るべきだと思った」(女子)

「どうして陸軍などの将軍が暗殺や虐殺をするのか、独裁者の人々が偉い人として写真をかざられているのか、謎なことが多かった」(女子)

戸田コメント 中南米でもアフリカでもアジアでも、親米独裁国家の軍隊による虐殺事件は多かった。スクール・オブ・ジ・アメリカズで飾られていたのは、成績優秀な卒業生の写真。

「グリーンピースについての質問は、反捕鯨運動に疑問を持っていたのでしました。なぜ鯨だけがだめなのでしょうか? グリーンピースは狩猟が気に入らないのでしょうか? 『反米大陸』読みました。あまり長い本が好きでない自分にとってはちょうどよく、内容も面白かったです。今度メキシコに留学する予定なのですが、中南米の近代の歴史も学べて良かったです。授業に出てくるCIAですが、アメリカ人の一般的な評価はいかがなのでしょうか? よく映画ではCIAがヒーローのように描かれていますが。一般市民はそんなこと考える余裕はないのでしょうか? アメリカの暴挙がよく出てきますが、これは必然ではないのですか? つまり世界一の国となるとその力を維持するためには他の国を貶めることが必要だと思うのです。仮にいま日本が世界一の大国であれば同じようなことをしていると思うのです。良いことか悪いことかは別にして結果的に仕方ないと思ってしまうのです。世界一の大国がクリーンなままその力を維持することは可能ですか?」(男子)

戸田コメント グリーンピースは捕鯨だけでなく、絶滅危惧動物の狩猟全般に反対している。捕鯨は必要ないと思う。調査捕鯨の鯨肉がたくさん売れ残り、在庫がどんどん増えている。『日本人はなぜ世界で一番クジラを殺すのか』星川淳(幻冬舎新書、2007年)などを参照。超大国(覇権国)や軍事大国の存在自体が民主主義や人権と相いれないと思う。クリーンなまま覇権を維持することはできないだろう。大半の米国人にとってCIAはプラス・イメージだろう。

「貧しい国を標的にしている国はアメリカだけではないと思うが、アメリカのやり方は他国から糾弾されるべきである。日本も思いやり予算など明らかに不平等な条約をつきつけられている国であるから、こういった第三世界の状況と変わりないと思う」(男子)

戸田コメント 米国以外の大国について。たとえばフランスの旧仏領諸国への搾取については下記がある。

『フランサフリック アフリカを食いものにするフランス』フランソワ=グザヴィエ・ヴェルシャヴ、大野英士・高橋武智訳(緑風出版、2003年)

「今日見たビデオにうつる人々は、自分とは全然違う世界のいるのだということを感じ取りました。世界中のだれもが同じような生活をしているわけではない。いつも敵をつくり、敵に向かう人というのはどんな心境なのか。戦うために生きるのか、生きるために戦うのかということだろうと思う」(男子)

「アメリカにあんな学校があるとは思わなかった。最初聞いたときも軍人を育てているだけかと思ったが、それが結果的に悪い方にしかつながっていないということは、閉鎖した方が人のためかもしれない」(男子)

「秘密戦争をして暗殺したりするのはすごく残酷なことだと思います。クーデターで、世界中で戦争を起こそうとしたり、1年間だけだといって軍隊を戦わせにいったり、その1年間という期間は守られなかったし、市民が次々に死んでいく状況を作り出すのは最悪な事態だと思った。麻薬密輸や暗殺にはいい環境なのかもしれないけれど、一般市民を無差別に攻撃したりするのは社会的にも虐待といってもいいし、麻薬を作る人だけが政府の味方というのはおかしいことだと思った。世界中でも武器や麻薬取引によって数千億も取引をし、政府組織の中でも何十億も調達している。人権も関係なく無差別に軍隊が人殺しをしたりするのは、今の日本でも事件などではあるかもしれないけれど、信じられないことばかりでした。軍隊は本当に必要なのかなと考えさせられました。市民の声とかを議会はもっと聞くべきだと思った」(女子)

「秘密工作というのは人を殺すというのも含まれているのだとわかった。市民や子供たちがたくさん殺されている映像は本当にかわいそうだと思いました」(女子)

「CIAという機関はあってもよいが、麻薬を密売したり買ったり、自分たちは憲法を守らなくてもいいとか、影で何をしてもよいということではない。そういうことは絶対に防ぐべきだと思った。日本もこいうならないといいと思った」(女子)

戸田コメント 日本も明治憲法下で軍事大国だったころは、政府機関が中国で秘密の麻薬取引をしていた。『日中アヘン戦争』江口圭一(岩波新書、1988年)などを参照。当時の岸信介も関与していたらしい。

「紹介された本(『エコノミック・ヒットマン』)が面白そうで気になりましたが、こういう告発者は暗殺されることはないのでしょうか」(女子)

戸田コメント 暗殺されたり、「不審な事故死」(事故に偽装した暗殺)や「不審な自殺」(自殺に偽装した暗殺)をする可能性はある。超有名人になると大丈夫のようである。パーキンスはまだ危ないかもしれない。

 

2008年1月16

『テロリストは誰? 第三世界に対する戦争 僕がアメリカの外交政策について学んだこと』所収の「経済制裁による大量虐殺」(13分)、「東チモールの大虐殺」(5分)、「嘘まみれのパナマ戦争」(Panama Deception22分)を映写

配布プリント 米国版ウィキペディアUnited States invasion of Panama の冒頭

http://en.wikipedia.org/wiki/United_States_invasion_of_Panama

映像に出てきたハーツガード、クラークの邦訳に下記がある。

『だからアメリカは嫌われる』マーク・ハーツガード、忠平美幸訳(草思社、2002年)

『ラムゼー・クラークの湾岸戦争 : いま戦争はこうして作られる』ラムゼー・クラーク、中平信也訳(地湧社、1994年)

劣化ウラン汚染(癌、白血病、先天異常)や経済制裁(医薬品不足など)、戦争の泥沼化で苦しむイラクの子どもたちについては下記がわかりやすい。

『イラク : 湾岸戦争の子どもたち : 劣化ウラン弾は何をもたらしたか』森住卓写真・文(高文研、2002年)

『カラー版 子どもたちのイラク』日本国際ボランティアセンター(岩波ブックレット、2003年)19901995年の経済制裁で567000人の子供が栄養失調、感染症などで死亡したと国連FAOが推計(6頁)

『戦火の爪あとに生きる 劣化ウラン弾とイラクの子どもたち』佐藤真紀(童話館出版、2006年)童話館は長崎駅の近くにある出版社。

パナマ侵攻などの背景は『エコノミック・ヒットマン 途上国を食い物にするアメリカ』ジョン・パーキンス、古草秀子訳(東洋経済新報社、2007年)でよくわかる。

戸田清『環境学と平和学』(新泉社2003年)147頁の表も参照。オルブライト発言は146頁に引用。

 

表 近接して起こった3つの国家犯罪の比較

 

 

罪の大きさ

罰(制裁)の大きさ

中国の天安門事件(1989年6月)

中(非戦闘員の死者数百人)

中(各国政府からある程度の制裁があった)

米国のパナマ侵攻事件(198912月)

大(非戦闘員の死者3000人以上)

小(国連総会の非難決議にとどまる)

イラクのクウェート侵攻事件(1990年8月)

小(非戦闘員の死者数十人)

大(国連のイラク経済制裁で子供50万人死亡)

これらを比較する発想については、ハワード・ジン博士の著書からヒントを得た。このように、3つを比べると「たまたま」「罪の大きさと罰の大きさが反比例」している。

 

 

受講生の感想

「アメリカは手に入れたいものは、計画をしてでも手に入れる事がどうなんだろうと思った。パナマの石油資源など。また、それに反するものは人物が現れると排除しようとする考えは、全世界、もちろんアメリカ国民も知ろうとする事が大事だと思った」(女子)

戸田コメント パナマは石油ではなく運河の利権。トリホス、ノリエガが日本の援助で第二パナマ運河を計画したことが米国政府の逆鱗に触れた。パーキンス『エコノミック・ヒットマン』参照。

「アメリカは怖い国だと思いました」(男子)

「非常に衝撃的な映像の数々を見せられ、心が痛んだ。と同時に米に対する憤りと嫌悪感を覚えた。結局、自分たちにとって利益のあることなら、どんな手段を使っても手に入れること。逆に用がなくなったのは米国人だろうと。立場を変えて自分の心に聞いてみるべきだろうと思った。あきれてものも言えない気持ちだ」(女子)

「パナマ侵攻によって2万人のパナマ人が家を失った。死者数や死亡場所は米軍が隠していたが、人々の証言で4千人以上が死亡したのは確実です。この侵略は国際法に違反しています」(女子)

「ビデオを見ていましたが、非常にバカバカしいです。アメリカはそんなに武力を見せつけて、「自分たちがやっていることは正しい」とか「かっこいい」と思っているのでしょうか? 到底理解できません。もちろんイラク側にも大いに問題はあると思います。ですが、自分たちがやっていることでどれだけ罪のない人々が命を落とすか少しは考えて欲しいです。アメリカの姿勢には怒りさえ覚えます」(男子)

「あいかわらず、アメリカの軍隊はひどいことをするなと思った。何でも力でねじ伏せる自己中心的な考えは早くやめてほしい。話はまったく変わりますが、先日都市で価値ある金属が採れるという話をニュースで見たのですが、それにより日本の将来に影響はありますか?」(男子)

戸田コメント あいかわらずと言うよりは、映像は1980年代のことなので、ブッシュ(子)で突然おかしくなったのではなく、以前からおかしなことはやっていたということ。アイゼンハワー時代のイラン政府転覆やグアテマラ政府転覆(CIA)、ニクソン時代のチリ政府転覆(CIA)、レーガン時代のグレナダ侵攻(米軍)、ブッシュ(父)のパナマ侵攻(米軍)、ブッシュ(子)のアフガン戦争、イラク戦争(米軍)は、変わらぬ伝統である。今年11月の大統領選挙がどうなるか。都市の金属は、廃棄物に含まれる金属を有効活用すれば「都市鉱山」になるということ。日本も努力が必要。これが失敗すると金属需給はますます逼迫する。携帯電話も金、リチウム、インジウム、ガリウム、ニッケルなどが回収できれば「宝の山」。毎年1400万台の使用済み携帯が回収されず、金だけで100kgになる。インジウムの55%は中国で産出。中国政府は自国の高度成長のため輸出抑制の意向。日本の「都市鉱山」は、金で南アフリカ(世界一の産出国)を上回り、インジウムも使用済み家電から回収できれば中国の6倍。稀少金属めぐり資源争奪戦。テレビ、冷蔵庫だけでなく、パソコン、携帯などあらゆる家電から資源を回収したい。物質・材料研究機構(国の研究機関)NHK2008年1月22日のニュースの特集。

「4千人以上もの人がパナマで米軍によって殺されたにもかかわらず、その事実を隠して、その上死者をぞんざいに葬ったアメリカ合衆国をこの世界の中心国に相当する存在にしてしまった、私たちのような他の国々の責任も重いと思います」(女子)

戸田コメント 特に米の主要同盟国である英国と日本の責任は大きいだろう。カナダはイラク派兵を拒否した。映像でラムゼー・クラークが言うように米はplutocracyになってしまったが、日本や欧州も同様。

「侵略作戦や掃討、また制裁は本当に怖いものだと思った。なぜなら、罪のない人々の大量死を招くからである。戦争や侵略以外の方法で和解にもっていくことはできなかったのだろうか。また遺体もほとんどが乱雑に扱われている。そしてこのような侵略や掃討作戦に多大な影響がみられるものにメディアの影響があげられる。政府が主導権を握り、メディアに大きな圧力をかけている。侵略に伴うメディアの影響と大量死が相まって「独立国への侵略」は憲法違反とする声があがっている。米国は常に米国人の安全に重点をおき、相手国の擁護を頻繁に口にするが、何か矛盾が起きていると感じざるをえない。というのも、結果的に米国人の安全も相手国の擁護もできていないからである。いつも米国が強いということを主張することだけが上回って空回りしていると思えてならない」(女子)

「パナマ侵攻はパナマに非があったからアメリカが攻撃したかと思っていたが、ビデオを見たらアメリカが悪かった。アメリカがいかに自己中心的だったのかが判明した。」(男子)

「イラク経済制裁によって約50万人の子供たちが栄養不足などの理由で亡くなった。非常に悲しい事だ。そして米政府はイラクに化学兵器工場があると思い込み、イラク戦争でそのような工場を破壊した。しかし、イラクに本当にその化学兵器の工場があったのかどうか疑問になっている。イラクでこのような事件を起こしたアメリカ政府には重大な責任があると思う」(男子)

戸田コメント イラク戦争というと2003年のものをさすので、ここでは違う。それ以前のイラク空爆のことだろう。化学兵器工場と思って粉ミルク工場を誤爆したらしい。また1998年のスーダン空爆では化学兵器工場と思って医薬品工場を誤爆した。それはアフリカ諸国に医薬品および動物用医薬品の不足を引き起こし、人と家畜の伝染病が増えた。人畜共通伝染病があるので、家畜伝染病の一部は人にも波及する。

「私たち一般市民は、どの国が一番強いとか、人の幸せを奪ってまでより幸せになりたいと思っていないのに、アメリカの組織の人は、それを求めようとしている。国のため、世界のためと言って自分たちのことしか考えていない。もっと市民団体等の活動が活発化して、いつかアメリカの悪事をあばいてほしい。前に「24」(おそらくシーズンⅤ)というアメリカ映画を見ました。大統領が私欲のために、余計な人々(正しい人)を殺し、自分の大統領という権力で国をあやうくする話でした。大統領が中心となって悪事を行うなんて、ドラマの中の話だと思っていました。けど、ビデオを見て、アメリカのCIAや上層部の人たちが私欲?のために、理由付けをして、国民が望んでいないことをしていることがわかりました。今までビデオで見てきたテロ事件や東チモールの件など、アメリカの誰が関わっているのですか? CIAや大統領、軍隊など、すべてがぐるになっているのですか?」(女子)

戸田コメント 大統領、政権上層部の一部、CIA上層部の一部、軍上層部の一部、財界の一部、学者の一部などが関わっているとみていいでしょう。

「経済制裁で50万人近くの子供たちを亡くしたり、イラク戦争で化学兵器があると思われる工場を壊したり(そのような工場はなかったと噂されているが)と、米国は本当にひどい国だなと思う」(男子)

戸田コメント イラク戦争(2003年)ではなく、それ以前の空爆。国連のイラク経済制裁には日本政府も賛成しているので、日本政府および日本の有権者にも責任がある。人事ではない。外務省から出向して長崎大学環境科学部助教授をしていた人物が、学生の質問に答えて、「イラクの子どもたちはかわいそうだけど、仕方ないのですよ」と述べていた。外務省の見解なのだろう。

「アメリカのというか、ブッシュ政権のイラクへの攻撃は、アメリカ国民の中でも意見が様々に分かれ、日本人でもイラク攻撃をするからブッシュが嫌いという人もいる。攻撃だけならまだしも経済制裁までしてしまうと、病気や飢餓で苦しみながら死んでしまう。今現在も行われているのか知らないが、ブッシュは本当に頭がおかしい。」(女子)

戸田コメント 経済制裁はフセイン政権崩壊後まもなく停止された。米国主導の国連イラク経済制裁(19902003年)に責任があるのは、ブッシュ(父)、クリントン、ブッシュ(子)の3人である。映像に出てきたオルブライトは、クリントン政権の国連大使および国務長官だった。ブッシュ(父)は湾岸戦争(1991年)、クリントンはイラク空爆(1998年)、ブッシュ(子)はイラク政権転覆(2003年)をしたので、3人ともイラクに武力行使をして非戦闘員(市民)を殺したのである。なお国連のハイチ経済制裁でも子供の死亡率が64%も増大した(ユニセフ世界子供白書1996日本語版20頁)。

「非常に気分が悪くなりました。けれども決して目をそむけてはいけない問題だと思います」(男子)

「アメリカ政府の経済制裁は本当に実行する意味があるのか疑問に思った。私にはただ単に強い国が弱い国を倒して(いじめて?)いるとしか考えられない。本来、アメリカ政府は弱い国を救う義務があるはずなのに。アメリカ政府は根本的な何かが欠けている」(男子)

戸田コメント アメリカ政府の経済制裁ではなく、国連の経済制裁である。当初は「武力行使より経済制裁の方がましだ」ということで始まったが、武力行使(1991年湾岸戦争)のあとも漫然と執念深く続けられた。

「アメリカ人は好きだけど、アメリカ政府は嫌いだ。つくづく思った」(男子)

「SOAというものからまず消していかなければならないと思った。利益があるのだろうか?」

戸田コメント SOAという名前だけは消えた(WHINSECに改称)。

「経済制裁は子供の命を奪うだけで、利益など得られることはないと思います。アメリカはどこまでやり続ければ満足できるのでしょうか」(男子)

「今季は別の講義でアフリカ大陸の歴史や政治についても勉強しているが、どこでも似たような事が起きているのだと思った。しかも、もう〝起きた〟こと。少しでも沢山の事を知らなければいけないと思う」(男子)

「イラクに関するビデオは講義でかなり見てきているが、今回のビデオはよりショッキングだった。アメリカがいかに自己中心的で自らの実力を見せつけたがり、他国民に甚大な被害を及ぼしても何とも思わないという身勝手でひとりよがりな考えは許されない」(女子)

「最初のビデオに出てきたアメリカ政府の女性(オルブライト国連大使)は信じられない事を言ったと思います。イラクで亡くなっていた子供たちは戦争より価値がないということです。アメリカ政府が間違っていても認めたくない、そういう事を言ったのでしょうか」(女子)

戸田コメント アメリカ政府が間違っていることはうすうす自覚していると思う。

「なぜイラクだったのだろうか。核兵器を開発、悪の枢軸とまで言われた北朝鮮とどう違ったのか。そこにアメリカ政府の思惑が隠れているとしか私には思えなかった。経済制裁と表では言い、実際には石油の独占、再植民地化を進めているように思える。これからイラク戦争はどうなっていくのだろう」(女子)

戸田コメント ブッシュが2002年に「悪の枢軸」と呼んだのはイラク、イラン、北朝鮮。イラクとイランは産油国。イラクと北朝鮮は人口2000万だが、イランは6000万人。イラクは経済制裁で疲弊。かつては3国とも核兵器開発の意図を持っていた。

「アメリカがイラクでの戦争で800トンもの劣化ウラン弾などを使用していたというのには驚いた。また、そのためにガンなどで苦しんでいる人が多くいることも忘れてはならないと思った」(男子)

「石油の輸出国がサウジアラビアであることはよく知っていたが、かつてはイラクも石油によって国が支えられていたことを知って驚いた。戦争に劣化ウランが使われ、イラクの人々に多大な被害が出ているうえに、経済制裁によって国力も急激に低下させている。そこまでやる必要があるだろうか」(男子)

「アメリカは知っていながら自分の国に都合がいいからと20世紀最大の大量虐殺(ホロコーストのこと? 東チモールのこと?)を報道せず、この事件について話そうとしなかった。と知って私は、アメリカは自分勝手だと思った。全然関係のない子供たちだって殺されている。被害者の人々のことを思うとすごく悲しくなった」(女子)

「人間はずっと弱肉強食の歴史を歩んできたし、この先その流れを止められるとは到底思えません。大国は思い通りにならない相手には何かと因縁をつけて、自分たちを正当化して戦争をしかけ、弱い国はただ被害者になるだけ。日本も同じ手で過去に戦争を無理矢理させられ、敗れれば悪いのは全部日本とされた。周りの国もイエスマンばかり。アメリカは国連も無視して戦争を起こすからどうしようもない。現在反米の国は中南米だけですか? 日本にも反米になってほしいのですが今の状況では無理でしょうね。アメリカ合衆国日本州といったところでしょうか。もしアメリカから独立するにあたって国防はどうすればいいのでしょうか」(男子)

戸田コメント 中南米はコロンビアを除いて反米が多い。ロシアはある程度反米だがプーチン自身も大きな国家犯罪をしている(チェチェン戦争)。ビル・トッテンは米国政府に腹を立てて米国籍を捨て日本に帰化した。京都在住の「元米国人」実業家。『日本は略奪国家アメリカを棄てよ グローバリゼーションも共同幻想も必要ない』ビル・トッテン(ビジネス社、2007年)。国防はどうするか、国民の討論が必要。

「国連と国際法がしっかり機能していないため、アメリカは弱い国を侵略し自分たちの思い通りに行動するのだ。恐らく国際法にも具体的な罰則が明記されていないからだと思う。また国連やマスメディアはアメリカの傀儡であるのも明確だが、メディアが人々に与える影響は非常に大きい」(男子)

「〝制裁による大虐殺〟というビデオを見て、湾岸戦争がどんなものだったのかがよくわかった。幼い頃は戦争があったのも知らず、のうのうと遊んでいた。これで亡くなった、もしくは病気で苦しんでいるのは恐らく現在は自分と同じくらいの年齢だと考えるとかなり恐ろしい。イラクがクウェートに侵攻したことは悪いと思うが、子どもたちは、全く罪はない。制裁、罰は当人が受けるもの。無理なのかもしれないが、政府に対するものだけにとどめてはおけないのだろうか」(男子)

戸田コメント イラクがクウェートに侵攻したのは、アメリカが黙認すると思わされたからである。「はめられた」と言える。エイプリル・グラスピー大使はフセインに「アラブ人同士の紛争には干渉しない」と述べた。

「今日起こっていたアメリカの出来事を自分たちとは関係ない事と考えている人もいるかもしれない。アメリカの侵略がどのようにされていったのか、という事を今日自分はわかることができました」(男子)

「パナマ侵略という名前だけは聞いたことがあったが、あれでは侵略というよりも虐殺と言われてもおかしくないと思った。アメリカは世界的にも力を持った国だが、事実を隠し、隠蔽し、持ってはならない力も持ってしまっているように感じた」(男子)

「子どもたち、赤ちゃんが政府の水の浄化装置を設置しないことで病気になって死んでいると知って驚きました。政府の人々は将来国を作っていく子供たちのために色々しなければいけないと思いました」(女子)

戸田コメント 最貧国ではきれいな水が得られないため年間数百万人の子どもが伝染病や下痢で死んでいる。『水戦争』柴田明夫(角川SSC新書2007年)など参照。

「南京大虐殺と同じくこのパナマ侵攻といい、本国にはあまり有名ではないということでしたが、そういう自らの国が行ったことを隠し、テロや原爆や自らの被害について取り立てて騒いでいるのに惑わされたくないと考えることがしばしばあります」(女子)

戸田コメント もし日本が戦争に勝っていたとしたら、日本政府は南京大虐殺を隠していただろう。米国政府の公式説明では「パナマ侵攻の死者は僅少」である。


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