長崎市議会文教経済委員会で2008年6月19日に「六ヶ所再処理工場の本格稼働中止を求める意見書に関する請願」(原発なしで暮らしたい・長崎の会、2008年6月12日)についての意見陳述を川原重信氏と私(戸田)が行った。11対2で請願は不採択であった。私の配布資料に加筆して以下に紹介する。

2008年6月24

 

日本の原子力開発(再処理路線)と潜在的核武装   2008年6月19日 長崎市議会  戸田清

 

 日本の原子力開発は、直接処分路線ではなく、再処理路線(核燃料再処理、高速増殖炉、軽水炉のプルサーマル運転)を採用しており、これが核拡散、潜在的核武装の観点から懸念されていることは周知の通りである。原発を保有する31カ国のうち、原発に加えてウラン濃縮工場と核燃料再処理工場も有するのは、核兵器保有国以外では日本のみである。もともとウラン濃縮工場は広島原爆(ウラン原爆)製造のための装置であり、原子炉と再処理工場は長崎原爆(プルトニウム原爆)製造のための装置であったことを想起しなければならない。

 

1.プルトニウムは原子炉級プルトニウム(プルトニウム239の純度が低い)と兵器級プルトニウム(プルトニウム239の純度が高い)に大別される。「原子炉級プルトニウムは核兵器にならない」というのは神話である。国際原子力機関(IAEA)の目安では、原子炉級プルトニウム約8kgで低性能原爆(粗製原爆)1発、兵器級プルトニウム約2kgで高性能原爆1発である(鈴木,200634;槌田・藤田ほか,200722など参照)。日本が保有するプルトニウム40トン(半分以上は今後再処理委託先の英仏から返還予定)を8kgで割ると5000になる。「原爆5000発分のプルトニウム」というのはこれをさす。六ヶ所村再処理工場が順調に運転すると年間800トンが再処理され8トンのプルトニウムが生産される。「毎年原爆1000発分」というのはこれをさす。なお、低性能というのはたとえば、原子炉級では不純物ゆえに未熟な早期爆発が起こることがありうる(グリーンピース・ジャパン編,199518)。北朝鮮の核実験失敗(2006年)の原因もプルトニウムの品質にあったかもしれない。しかし「低性能原爆」といえども危険であることを忘れてはいけない。これまでに原子炉級プルトニウムで核武装した国はないので、本命はもちろん兵器級プルトニウム(コールダーホール型と高速増殖炉に関連)である。

 

2.「ウランとプルトニウムの共抽出(混合抽出)なので核兵器にならない」というのは、2つの理由から神話である。第1に、アルゴンヌ国立研究所の報告が指摘するように、ウランとプルトニウムを分離することは、専門技術者にとっては容易である(Taiwo et al.2007:8)。

 

3.第2に、同じくアルゴンヌ国立研究所の報告が指摘するように、同じくウラン・プルトニウム混合物からも核兵器をつくることができる(Taiwo et al.20073133)。50%−50%混合物の臨界量は兵器級プルトニウムの5.6倍にすぎない。長崎原爆のプルトニウムは6kg、広島原爆のウランは64kgであったので、1桁の差は大きくない。

 

4.同じくアルゴンヌ国立研究所の報告が指摘するように、プルサーマル(玄海原発が最初の予定)で大量に発生する超ウラン元素の「マイナー・アクチニド」のうちネプツニウム237も核兵器の原料になりうる(Taiwo et al.2007:8)。

 

5.日本は兵器級プルトニウムとも無縁ではない。政府は高速増殖炉(FBR)もんじゅ2008年のうちに、1995年ナトリウム漏れ事故以来13年ぶりの運転再開を意図しており、同時に東海村のリサイクル機器試験施設(RETF)も運転開始すると思われる。RETFによってもんじゅのブランケット燃料(劣化ウラン)を再処理して兵器級プルトニウムが得られる。FBRは原子炉級プルトニウムを消費して兵器級プルトニウムを生産する装置であることゆえに、藤田祐幸博士(元慶応大学助教授、西海市在住)は、「マネー・ロンダリング」をもじって「プルトニウム・ロンダリング」と呼んでいる(槌田・藤田ほか,2007130)。FBRの常陽ともんじゅですでに36kgの兵器級プルトニウムを生産しており、これは高性能原爆の約20発分に相当する(槌田・藤田ほか,200722)。なお、JCO臨界事故(1999年)も政府・旧動燃が常陽のために中濃縮ウランの加工を強要したことが根本原因であった。

 

6.兵器級プルトニウムと関連するのはFBRだけではない。玄海原発ほか55基の軽水炉が低濃縮ウラン燃料を使用するのに対して、東海1号19661998年)はコールダーホール型で天然ウラン燃料を使用していた。東海1号の使用済み核燃料は全量が英国に送られており、抽出された兵器級プルトニウムが英国の核兵器に転用された可能性を否定できない(グリーンピース・ジャパン編,1995:B)。藤田博士は、コールダーホール型は「軍事転用の最短距離」であったと指摘している(槌田・藤田ほか,200796)。つまり、原子力基本法で「平和利用」をうたっておきながら、最初(商業原発第1号)から軍事利用への歯止めがなかったのである。

 

7.1994年のグリーンピース報告『不法なプルトニウム同盟』は、旧動燃がRETFの開発にあたり核兵器開発機関である米オークリッジ国立研究所と共同研究して技術移転を受けたことを指摘した。他の核兵器開発機関で開発された技術もRETFに寄与した(吉田,2007241248も参照)。

 

8.岸信介内閣によって1957年に採用された「自衛のための核兵器保有は憲法に違反するものでない」という政府見解は、その後撤回されることなく現在に至っている(槌田・藤田ほか,200797)。

 

 以上核武装との関連で述べたが、日本の原子力は核兵器の他に劣化ウラン兵器との関係でも懸念がある。日本のウラン濃縮工場の規模は小さいので、ウラン濃縮の大半は米国に依存している。カナダ、オーストラリア、アフリカなどのウランもいったん米国のウラン濃縮工場に運ばれる。ウラン濃縮工場は大量の電力を消費し、大型石炭火力発電所に依存するので、「原発は地球温暖化対策に貢献する」というのは神話である。5トンの天然ウランから濃縮ウラン1トンと劣化ウラン4トンが得られると仮定しよう。ごみ(劣化ウラン)まで運ぶと余計な輸送費がかかるので、日本の電力会社は所有権を放棄する。その劣化ウランを米国が軍事利用しようと勝手である。

 

参考資料

大庭里美『核拡散と原発』南方新社2005

カン・ジョンミン (核問題アナリスト)<インタビュー> 何のためにプルトニウムをこれ以上増やすのですか? ――六ヶ所再処理工場稼働への懸念」『世界』2006年5月号 岩波書店

グリーンピース・インターナショナル『不法なプルトニウム同盟』高木仁三郎監修、グリーンピース・ジャパン編(たんぽぽ舎1995年)Unlawful Plutonium Alliance1994の邦訳と解説

原水禁「再処理工場の製品からプルトニウムを取り出すのは簡単と米国立研究所」2008

http://www.gensuikin.org/nw/anl_coex.htm

澤井正子「六ヶ所村核燃料再処理工場計画の凍結を」『世界』2006年5月号 岩波書店

鈴木真奈美『核大国化する日本 平和利用と核武装論』平凡社新書2006

田窪雅文「課題はニューヨークではなく、日本にある NPT再検討会議と日本の核政策」『世界』2005年6月号 岩波書店 六ヶ所村再処理と核拡散

槌田敦・藤田祐幸ほか『隠して核武装する日本』影書房2007

吉田義久『アメリカの核支配と日本の核武装』編集工房朔2007

ブルース・ギャグノン(藤岡惇訳)「危険な宇宙レースの道を歩みだした日本」『世界』2005年7月号 岩波書店

E.Lyman and F.N.von HippelReprocessing RevisitedInternational Dimensions of the Global Nuclear Energy PartnershipArms Control TodayApril 2008

http://www.armscontrol.org/act/2008_04/LymanVonHippel.asp#25

T.A,Taiwo et al.Co-Extraction Impacts on LWR and Fast Reactors Fuel CyclesArgonne National Laboratory2007

http://www.ipd.anl.gov/anlpubs/2007/10/59405.pdf

 

 

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