環境正義と平和　「アメリカ問題」を考える

著者：戸田清著 　　法律文化社2009年３月25日発行　ISBN978-4-589-03166-2

定価：2520円（税込）

判型・頁数：四六判・278頁 並製

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本体2400円、書店価格2520円、長崎大学生協価格2268円、著者割引2000円（郵送の場合は冊子小包実費）

 

目次

まえがき……………………………………………………………………………………………�@

第１章　環境学と平和学からみた暴力…………………………………………………………１

　　　　�T　戦争は最大の環境破壊（２）／�U　資源浪費構造を維持するための戦争（５）

　　　　�V　公害・環境問題にみられる構造的暴力（10）／�W　環境学と平和学（24）

第２章　環境正義と社会………………………………………………………………………34

　　　　�T　アフリカ系米国人、米国先住民、在日コリアンなどマイノリティの環境権（34）

　　　　�U　核開発と環境正義（37）／�V　資源・環境問題と南北格差・戦争（40）

　　　　�W　持続可能な社会と環境正義（46）／�X　人間中心主義と自然の内在的価値（48）

第３章　水俣病事件における食品衛生法と憲法……………………………………………55

　　　　�T　はじめに（55）／�U　最高裁判決（56）／�V　排水規制と認定基準（57）

　　　　�W　食品衛生法（59）／�X　憲法（72）／�Y　被害の拡大（74）／�Z　おわりに（79）

第４章　「米国問題」を考える…………………………………………………………………92

　　　　�T　「米国問題」という言葉（93）／�U　「米国問題」を象徴する発言（96）

　　　　�V　世界社会に占める米国のプレゼンス（102）／�W　「９・11事件」の謎（118）

第５章　原爆投下を裁く民衆法廷……………………………………………………………137

　　　　�T　民衆法廷・広島の概要（137）／�U　実行委員会共同代表による経過説明（140）

　　　　�V　検事団による起訴状（143）／�W　証言、検事団最終弁論、アミカス・キュリエ意見（145）／�X　判決と勧告（148）

第６章　環境と平和をめぐる論考……………………………………………………………151

　　　　�T　原爆と平和教育（151）／�U　劣化ウラン弾の問題をどう学習するか（159）

　　　　�V　ベトナム枯葉作戦（165）／�W　霊長類と暴力（168）／�X　煙草問題（171）

　　　　�Y　書評（173）

補章　用語集……………………………………………………………………………………217

あとがき（253）初出一覧（255）

事項索引（巻末１）、人名索引（巻末３）、資料１　新聞社説の比較（巻末５）

資料２　推薦図書（巻末９）、資料３　著訳書リスト（巻末12）

 

関連文献

戸田清「論争　三つの核技術（核兵器、劣化ウラン兵器、原発）は不可分だ」『週刊金曜日』2009年５月１日号63頁

 

戸田清　〒852-8521 長崎市文教町１−14　長崎大学環境科学部

電話　095−819−2726　　ファクス　095−819−2716　事務気付

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『環境正義と平和　「アメリカ問題」を考える』の書評

 

１．『図書新聞』第2922号（2009年６月20日）５頁

学術　生態学的民主主義に近い世界システムへの転換

ソ連崩壊後の米国の振る舞い、今日の科学技術文明社会、そこにみる暴力

綿貫礼子／サイエンス・ライター

戸田清著『環境正義と平和　「アメリカ問題」を考える』３・25刊　四六判278頁　本体2400円　法律文化社

　2009年１月20日のオバマ新大統領の就任演説はアメリカ国民のみならず、世界の多くの人々に類い稀なる発言力で、豊かな未来への思想性を表していた。「我われはいま��未来世代�≠ｩら何を問われているか」との結びの語りかけは、自身の変革の考えを率直に、しかも哲学的に響かせているように聞いた。

　具体的なグリーン・ニューディールと呼ばれる政策では、化石燃料から再生可能な「自然エネルギー」中心へと革命的なパラダイム転換が求められている。しかしながら、既存の原子力エネルギー利用をどのように位置付けるかについては、まだ聞こえて来ない。その後のオバマ政権の��脱ブッシュ�≠ﾌ動向に重ねて、評者は本書を読み進めた。

　題名の「環境正義」は余りなじまない用語だが「自然と人間との関係から生じる受苦と受益の分配が公平であることを指す」と説明される。著者自身の「環境正義」の含意を「アメリカ政府の環境正義の解釈は狭すぎる。環境正義が軍事大国や石油浪費社会と両立するはずがない」と簡潔に述べている。本書の特徴の一つは、今日の科学技術文明社会の捉え方にあり、第二次大戦後、とりわけソ連邦崩壊後における近代世界システムの単一覇権国としての「米国」の��振る舞い�≠�主題とする。

　21世紀の我われ世代は原子力の軍事利用はいうに及ばず、チェルノブイリ原発大事故以来、原子力発電所の稼働による原子力依存社会を��正義な社会�≠ﾆ認めるか否かは、未だ解を持たない今日の世界政治の最重要な課題である。それは当然ながら、我われ自身の核意識・態度の課題でもある。著者は長崎の被爆地に移り住み、最近では当地の被爆者や原爆研究者らとともに共著書も出しており、氏の関心事「核問題」は本書の中心的課題である。

　第４章では、近代世界システムの光と影を集約した超大国の「米国問題」が概観されるが、ここで評者が注目するのは次の第５章「原爆投下を裁く民衆法廷・広島」（2006年７月15日?16日、広島市で開催）である。本書の主張を示す極めて重要な光った引用箇所である。この被爆者・市民らによる「民衆法廷」には1945年から2006年にいたる日米間の核問題の歴史的事実が提示される。米国政府はもとより、世界の首脳らの核政策の基礎とされるべき内容、例えば、�@被害者の放射線に由来する「晩発的健康影響」の継続性、�A核認識における日米間のギャップにみる構造的暴力、�B��核なき世界�≠�創りだすための生命哲学的な示唆、などが読み取れる。

　したがって第５章を読者はぜひ熟読して欲しいと思う。付け加えれば、本書の論旨にばっしり組み入れる形で、著者自身の「法廷」現場からの見解がここで述べられて欲しかったと、惜しまれることである。しかし、このような民衆の手による貴重な英文資料がブッシュ前政権ではなく、直接オバマ新政権に届けられたことだろう。チェコ・プラハでの核廃絶に関するオバマ演説（４月５日）は、「米国は核兵器を実戦に使用した唯一の国として行動する道義的責任がある」と述べられ、従来の米国政府の考え「原爆投下は正しかった……」とは政治姿勢をきっぱり改めた。それは今後の世界政治の方向を示唆する、革命的とも見なせる４月５日という日なのだろうか。この第５章が核なき世界に向けて役立てられることを期待したい。

　本書は「環境学と平和学からみた暴力」をテーマに掲げて、環境的考察、つまりエコロジカルな哲学・倫理をたっぷり含んだ「平和論」と見なすことができる。ここでいう平和の概念には、戦争の��直接的な暴力�≠ｾけでなく、それに対比して戦争がなくとも環境破壊、貧困、差別などにみられる��構造的暴力�≠竍�文化的暴力�＝i正当化する言説などを含む）が存在しない状況を指すもので、1968年以来提起されているヨハン・ガルトゥングの平和学理論に依拠している。

　紙数が尽きたが、「ベトナム枯葉作戦」（第６章の�V）に関連する諸々のダイオキシン被曝の事例を取り上げる。この問題は�V節のように短い箇条書きのスタイルでは、重要な問題の本質が伝わり難い。この60年間余のダイオキシン被曝の諸事例（農業の場、戦争の場、生産工場労働の場、生態系汚染の場、生活の場、胎児の生育の場における）は、「戦争と平和」に跨る暴力の連鎖を示している。その連鎖によって起こった20世紀後半の由々しきエコロジーの歴史と捉える必要がある。米国政府による「枯葉作戦」という直接的暴力を「政治と歴史」の地平の中に位置づける視点が求められねばならない。すなわち、国家犯罪の��一連の暴力の歴史�≠ﾆして諸々の被曝事例を時系列につなげて捉えるならば、社会の構造の深みの中で見え難い存在の暴力が浮上して、可視化されて来よう。米国政府の軍事研究の中で1945年以前に開発された化学兵器＝エイジェント・オレンジ（ダイオキシン含有）は、その兵器の名を「枯葉剤」（ありきたりの物質）とすりかえるだけでなく、その兵器自体の「重要な毒性を隠蔽する」という暴力の歴史が問われねばならない。1960年代半ばには秘密裏に再度毒性実験を行い、強い生殖毒性を知りつつ「枯葉作戦」が続行された（1962−1972年）。「原爆投下」と同様に「枯葉作戦」もまた決して繰り返されてはならない20世紀の暴力の歴史である。

　本書をまとめれば、アメリカの社会学者イマニエル・ウォーラーステインの「近代世界システム」論に依拠しながら、現代の危機――環境、資源、格差と貧困、世界金融危機、戦争・紛争などなど――がそれぞれつながり合い、複合的なものとして問い返される。結局今日の危機を生み出した、従来の資本主義に発した近代世界システムをそのままにしてよいわけはない。いま問われるべきこととして、環境正義、平和、人権を価値とする生態学的民主主義（エコ・デモクラシイ）に近い世界システムへの転換が期待されると結んでいる。そのとき今日のような意味での覇権国の概念はないだろう、とみる。

 

 

２．『全国唯研ニュースレター』105号（唯物論研究協会、2009年７月11日）13頁

新刊書短評

『環境正義と平和　「アメリカ問題」を考える』戸田清著（法律文化社、2009年、2400円＋税）

　本書は、副題からも推察されるように、アメリカを中心とした先進諸国家の連合体による構造的暴力が環境問題の背後に潜んでおり、この点を改善してゆくことこそが肝要であるという、一貫した問題意識による分析と提言の書である。

　第１章は、戦争・軍事やアメリカを中心とした先進資本主義諸国のライフスタイルがいかに環境を破壊してきたかという点について、具体的事例をもとに分析され、環境学と平和学を架橋する視点の必要性が強調される。

　第２章は、最大の環境破壊を引き起こす核開発・兵器開発に象徴される戦争・軍事部門の興隆が、マイノリティや格差の問題といかに密接に結びついているか、分析される。そのうえで、持続可能な社会を標榜する環境正義の重要性が強調される。

　第３章では、水俣病問題において構造的暴力の横行した事実が分析される。なかでも、水俣病は、本来ならば食品衛生法にもとづく行政の対応が必要とされたにもかかわらず、2004年の関西訴訟判決も国の対応もその重要性をまったく認識していないこと、そしてそれが憲法や環境権との関係で多分に問題を含んでいるという点が分析される。

　第４章では、大量消費国アメリカの構造的なあらゆる問題の分析と、その延長上に位置するものとしての９・11事件の問題点とが浮き彫りになってゆく。

　第５章では、「原爆投下を裁く国際民衆法廷・広島」（2006年７月15日?16日）の概要が紹介される。そして、この民衆法廷の判決によって、いまも構造的暴力の背後にうごめく大量破壊兵器の違法性が断罪されたという点や、国際機関にかわる民衆法廷の意義が、前章との関連から画期的な視点として描き出されている。

　第６章では、原爆問題の根底にあるものが環境教育に反映されていないという筆者の問題意識から、劣化ウラン弾・ベトナム枯葉剤・類人猿と人類との関係といった視点から論考が進んでゆく。そのうえで、関連する書籍の紹介・書評が続く。

　補章では、関連用語集も収録されており、筆者がこれまで一貫して追究・主張してきた環境学と平和学との架橋の重要性について、具体的事例をふまえつつ認識を深めるための、好著である。

 

 

３．『週刊金曜日』762号、2009年８月７日号（原爆の日合併号）43頁

きんようぶんか　読書

『環境正義と平和　「アメリカ問題」を考える』戸田清＝著　法律文化社

2400円（税別）　　ISBN978-4-589-03166-2

資源浪費的な「超大国」　その課題を詳細に分析

村上朝子／フリーランスライター

　環境と平和の関係について考えてみたことがあるだろうか。実は、両者はとても密接な関係にある。まず、環境を保全するためには、平和が不可欠だ。わかりやすいのは、戦争は最大の環境破壊という事実。原爆の例を出すまでもなく、ベトナム戦争で使われた枯葉剤や、イラクなどで使用された劣化ウラン弾など、戦争による直接的な環境汚染と自然破壊のほかに、軍事による莫大な資源浪費も見逃せない。なんと米軍の年間消費量は、世界の消費量の一日強分に匹敵するという。また、資源危機が武力紛争を引き起こすことはよく知られている。水をめぐる紛争は各地で起こっているし、米国の中東介入は石油確保がその大きな要因だと言われている。

　戸田清さんは、最初の著書『環境的公正を求めて』（1994年）で、環境破壊の影響は社会的・生物的弱者にもっとも重くのしかかるという事実とその構造を、具体的かつ明確に分析・提示し、次の『環境学と平和学』（03年）で、今の「戦争と環境破壊の時代」を「平和と環境保全の時代」に転換するためには、環境学と平和学の連携が不可欠だと説いた。

　三冊目の単著にあたる同書［『環境正義と平和』］は、それらを踏まえ、現在の世界の状況を的確に捉える中で、さらに深めたものである。雑誌や学術誌などに書かれた文章をまとめたため、内容に多少重複があるが、戸田さんの論旨がより明確になっている。

　同書で注目されるのは、現代の資本主義経済、開発至上主義がもたらす、さまざまな問題点だ。「資本主義は格差を拡大し、貧困をつくり、過剰消費を煽り、環境破壊を助長し、戦争をもたらす傾向がある」と戸田さんは指摘する。そして、「近代世界システムの光と影を集約した超大国」として米国を取り上げ、その問題を詳細に分析している。

　米国要人の発言や、世界の資源消費などに占める米国の圧倒的なシェアを提示し、この国がいかに資源浪費的で、それを維持するために戦争を行っているのではないかといわれる所以を明らかにしている。たとえば、米国の自動車保有台数は、２億4124万台（05年）で、世界の約30％を占める。軍事費は約4800億ドル（05年）で、世界の48％を占めるほどだ。戸田さんは、「世界の資源・環境、平和、民主主義、人権などの問題を考えるうえで、『米国問題』をいかに認識し、向き合い、解決策をさぐるかは、21世紀のきわめて重要な課題のひとつであろう」と指摘する。

　環境破壊や貧困に加え、世界的金融危機が起こるなど、現在のシステムは行きづまっているといえる。戸田さんは「地球の限界との衝突が近代世界システムの危機をもたらした以上、次のシステムは資源浪費型ではありえない」とし、「エコデモクラシーに近いものとなるのか、エコファシズムに近いものとなるのか、それは特に21世紀前半の人類の集合的努力の如何にかかっていると思う」と述べる。つまり、目指すものは、「環境正義、平和、人権を価値とする」新たなシステムだ。次著では、このエコデモクラシーを実現するための道筋についてぜひ論じてもらいたい。

　最後に、平和学や環境社会学の分野におけるキーワードを補章でくわしく解説しており、これがとても参考になる。環境や平和を学ぶ人だけでなく、希望ある社会の実現に関心のあるすべての人に読んでほしい本だ。

 

 

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