Pネット寄稿(木村朗鹿児島大学教授の講演記録『9・11以降の世界と日本の選択(Pネット・パンフレット No.6)』はばもうPAC3 活かそう9条 九州ネットワーク、2009年2月の巻末40?43頁掲載原稿に加筆) 200812月8日 2009年3月6日改訂   戸田清

 

オバマ新大統領について  戸田清(長崎大学教員)

 

ブッシュ政権の「悪夢の8年間」がやっと終わって清新なオバマ大統領の時代になり、多幸感が漂っているようだ。

チェイニー副大統領が「テロ容疑者」に対する水責めの拷問(容疑者の顔を布で覆い、水を浴びせて自白を迫る)を容認したのに対してオバマはグアンタナモ収容所の閉鎖を主張している(『しんぶん赤旗』20081218日)とか、省エネや自然エネルギーへの投資による雇用創出などの「グリーン・ニューディール」を構想している(同紙1217日)といったことは、評価していいだろう。核兵器廃絶にも歴代大統領よりも前向きである。しかしその一方で原発業界やバイテク業界と親密な関係にあることはあまり知られていない。

浜田和幸は、200810月に出版された本で、こう述べている。「民主党のオバマ候補は原子力発電への移行計画を強力に打ち出し、共和党のマケイン候補は国内の未開発の油田を積極的に開発すべきと主張。」(『石油の支配者』浜田和幸、文春新書2008年、213頁)。浜田は右派の評論家であるが、この情報はたぶん正しいのではないかと思う。グーグルで「Obama nuclear」と入れて検索してみると、Blatant Realityというサイトが出てきた。そこにジョナサン・ウィリアムズという人が書いた2008年2月3日付の「Obama’s Nuclear Lobby」という記事があるので読んでみた。

http://blatantreality.com/2008/02/03/obamas-nuclear-lobby/

エクスロン(Exelon)というエネルギー企業がオバマへの主要献金企業のひとつであるとウィリアムズは指摘する。同社の本拠はイリノイ州にあるそうで、2003年以来、オバマの上院議員及び大統領選挙に少なくとも227000ドル(約2300万円)を献金したという(たぶんオバマの年収より少ないだろう)。同社の会長ジョン・ロウもオバマへの主要な献金者のひとりであるが、ワシントンにある原子力産業のロビー活動団体「原子力エネルギー研究所(Nuclear Energy Institute)」の会長を兼任している。オバマの選挙資金については「草の根献金」ばかりが強調されたが、財界からの献金も歴代候補よりはるかに多額だったようだ(『オバマの危険』成澤宗男、金曜日2009年)。オバマの政治顧問デヴィッド・アクセルロッドは、エクスロン及びコモンウェルス・エディソン社(Commonwealth Edison。イリノイ州最大の電力会社で、原発を持つ)のコンサルタントでもある。エクスロンはゼネラル・エレクトリック(BWR)、ウェスチングハウス(PWR)などと提携して、29基の新規原発計画を準備している。沸騰水型(BWR)と加圧水型(PWR)の「二刀流」という点では、東芝と同じだ。ウィキペディア英語版の「コモンウェルス・エディソン」によると、同社のフランク・クラーク会長もオバマを支援している。

エクスロン社のサイト http://www.exeloncorp.com/ourcompanies/powergen/nuclear/  を見ると、17基の原発にかかわったという。米国の原発は104基であるから、主要原発メーカーだと言える。

チェイニー副大統領らのエネルギー法案に対して、ヒラリー・クリントンは反対投票、オバマは賛成投票したとウィリアムズは言う。

周知のように米国の原発は世界の約4分の1にあたる100基あまりだが、カーター政権末期のスリーマイル島原発事故(1979年)以来原発増設はほぼ止まっていた。クリントンはもちろん、レーガン、ブッシュ父の時代でさえ増設0、ブッシュ子の8年間でも1基増設にとどまる(103基から104基へと言うことだが、最近の米国の原発新設報道はまったく記憶にないので、原子力資料情報室の勘違いの可能性も否定できない)。オバマ政権の元で「原子力ルネサンス」のかけ声のもとに大増設が再開される可能性は否定できない。

なお『朝日新聞』は、「……日本に同じく関係の深い原子力政策は、原子力利用を強く推進してきたブッシュ政権とは異なる道を進みそうだ。オバマ氏は原発の必要性は認めつつ、高レベル放射性廃棄物の安全な処分法ができるまで原発は増設すべきでないという立場。ネバダ州ヤッカマウンテンの最終処分場建設計画にも反対し、使用済み核燃料の再処理を柱とする国際原子力パートナーシップ(GNEP)にも慎重とされる。」(2009123 科学欄)と報じている。

天笠啓祐は、オバマについてこう指摘する。「バイオテクノロジー分野がどうなるかというと、同氏は強固な推進派で、科学アドバイザー五人のうち四人がバイテク推進。うち1人はモンサント社の元取締役。ブッシュ大統領が、カトリック保守層を支持母体としていたためバイオテクノロジーに消極的だったのと対照的である。」(『週刊金曜日』20081128日号、37頁)対照的に、英国のチャールズ皇太子は持論のバイテク批判を強めているという。モンサントは農薬と遺伝子組み換え作物の主力メーカーで、ベトナム枯葉作戦の農薬も(ダウ・ケミカルなどとともに)納入していた。環境汚染、データねつ造、政府との癒着、農民いじめなどで評判の良くない会社である。なお、マリー・モニク・ロバン(フランスのジャーナリスト)の『モンサントの世界戦略』の映像版は2008年6月14日にNHK衛星放送で放映されたが、書籍版の邦訳は作品社から今年出る予定であるので一読を勧めたい。

オバマは、アフリカ人差別発言(1991年)で悪名高いあのローレンス・サマーズ博士を国家経済会議(NEC)議長に起用した(『朝日新聞』20081126日)。1991年当時世界銀行副総裁・主任エコノミストであったサマー図の内部メモを入手したグリーンピースが世界に公表したのであるが、その文書の趣旨は、「汚染は、病気の治療コストが少ない国、つまり賃金の安い国に存在して当然である。有害廃棄物を賃金の安い国に流出させる経済論理は避けがたい。アフリカの人口密度が少ない諸国は汚染が少なく、大気汚染もロサンゼルスやメキシコシティーよりずっと少ないだろう。前立腺癌になるリスクを僅かに高める要因が不安の種になるのは、乳幼児死亡率が1000人当たり200人を越える国よりも、癌にならない限り長生きできる国である。」というものであった(『環境的公正を求めて』戸田清、新曜社1994年、123頁)。つまり、アフリカへの公害輸出(公害産業の移転)を暗に奨励したのである。サマーズは周知のようにクリントン政権末期の財務長官であった。その後のハーバード大学学長時代には、女性差別発言で物議をかもした。28歳で史上最年少のハーバード大学教授になるような「頭の良い」人なのだろうが、新古典派近代経済学者サマーズの価値観に私は違和感を覚える。

ハワード・ジン博士は、ゲーツ国防長官留任、ヒラリー・クリントン国務長官起用に多くの支持者が失望している、クリントンは好戦的傾向がある、イラクはもちろんアフガニスタンからも軍を引き上げるべきだ、先制攻撃しないと誓約すべきだ(ブッシュ・ドクトリンの撤回)、サマーズらの経済チームも旧式思考の規制緩和論者だ、巨大金融機関への公金注入ではなく数百万の雇用創出に努力すべきだ、などと述べている(『しんぶん赤旗』200812月3日)。オバマは「地球上で最強の軍隊を維持しなければならない」と述べており、ゲーツも軍事費拡大論者である(『しんぶん赤旗』同日)。オバマは「究極的には核兵器廃絶」の立場のようだが、当面は強力な核戦力を維持するだろう。ブッシュよりはだいぶ頭が良いので、イラン侵攻のような愚行はしないと思う。とはいえ、心配も残る。オバマ自身がユダヤロビーに迎合して「イスラエル無条件支持」を表明したことがあるし、クリントンは選挙運動中にイラン攻撃を唱え、ヨルダン川西岸の「分離壁」を称賛した。さらに政権移行チームを取り仕切っていたのが「イラク大量破壊兵器」情報偽造にも関与した元CIA高官ジョン・ブレナンであるという(『週刊金曜日』200812月5日号、8頁)。中東でもクリントン起用に不安の声があがっている(『しんぶん赤旗』200812月8日)。また周知のようにオバマはイラクからの兵力削減、アフガニスタンへの増派を計画している。増派ということは、民間人への「誤爆」も増えるであろう。9・11事件の真相解明(『9・11事件は謀略か』グリフィン、きくちゆみ・戸田清訳、緑風出版2007年、などを参照)にオバマが自発的に動くことは考えにくいが、世論の圧力で動く可能性はある。

ところで皆さんは、オバマのミドルネームをご存じであろうか。「フセイン」である。もちろん刑死したサダム・フセイン大統領と同じ綴りだ。オバマのフルネームは「バラク・フセイン・オバマ・ジュニア」である。ウィキペディア項目の「バラク・オバマ」が113もの言語で作成されていることには驚いた。そのなかには「ヨルバ語」(ナイジェリアの主要言語のひとつ。ノーベル文学賞のウォレ・ショインカもヨルバ人)もあり、アフリカ諸国での期待の高さ(たぶん過大な期待)をうかがわせる。私はエスペラント版ウィキペディアの「バラク・オバマ」を読んでみた。ケニア人の父(故人)はバラク・フセイン・オバマ・シニアで、不熱心なイスラム教徒だった。オバマの父は「三重婚姻のアル中患者」だったと報道されている(『週刊現代』20081129日号)。オバマの母(故人)はアメリカ白人、ミシェルはアフリカ系アメリカ人(奴隷の子孫)である。ミシェル・オバマはたぶん歴代大統領夫人のなかで最も背が高いだろう。なお、ウィキペディア項目の「ミシェル・オバマ」を見ると、37言語で作成されており(もちろんヨルバ語もある)、英語版には大量の情報が収載されているが、日本語版はバラク・オバマの当選後に作成されたものであり、大半が英語版の丸写し(邦訳さえしておらず英文のまま)で、慌ててつくった様子がうかがえる。ブッシュ夫妻とオバマ夫妻が並ぶと、ブッシュ夫人(おそらく160aあまり)だけがハイヒールでも一段と背が低い(『朝日新聞』20081112日)。バラク・オバマは186a、ミシェル・オバマは180aであり、ミシェルがハイヒールをはくと同じ身長になる。2人の娘も背が高くて美しい黒人女性に成長するであろう。ブッシュは182aである。オバマ夫妻の年収が約4億円で麻生首相を上回るという報道(『週刊新潮』20081120日号)の真偽のほどは、私にはわからない。ドイツ人が書いたオバマの伝記はなかなか面白いので一読を勧めたい(『ブラック・ケネディ オバマの挑戦』クリストフ・フォン・マーシャル、大石りら訳、講談社2008年)。オバマは2006年まで喫煙者だったという。「大統領選挙に出馬するならやめなさい」とミシェルに言われて、ニコチンガムやニコチンパッチを使って煙草をやめたそうだ。しかしいまでもたまに喫煙するという報道もある(Yahoo! News200812月7日)。

新しい文献として、『週刊金曜日』2009年1月16日号(特集 オバマの危険 新政権の隠された本性)、『オバマの危険』成澤宗男(金曜日、2009年)がある。大統領就任式(1月20日)に先立って批判特集を出すのは素早いものだ。他方、『オバマ 危険な正体』ウェブスター・G・タープレイ、太田龍監訳(成甲書房、2008年)は早くも昨年に邦訳が出たが、こちらは成澤の本と違って難点もあるので、『週刊金曜日』の「読み方注意!」欄に批判的な書評を出す予定である(この3点はオバマ礼讃本の洪水のなかでは貴重なので新刊拙著『環境正義と平和』法律文化社2009年、のあとがきでも言及した)。ともかく、イラン侵攻の悪夢(イスラエル、米、もしくは共同)がないことを祈りたい。


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